今月の平台/『ぼくはなにいろ』黒田小暑

文字数 2,253文字

ひら-だい【平台】…書店で、書籍や雑誌を平積みする台のこと。


書店の一等地といっても過言ではない「平台」は、今最も注目のオススメ本&新刊本が集まる読書好き要チェックの胸アツスポット!

毎月刊行される多くの小説の中から、現役書店員「これは平台で仕掛けたい!」と思うオススメ書目1冊をPick Up!&読みどころをご紹介!

さらに、月替わりで「今月の平台」担当書店員がオススメの1冊を熱烈アピールしちゃいます!

「今月の平台」担当書店員、

出張書店員内田剛さんが熱烈アピールする一冊は――

黒田小暑著『ぼくはなにいろ』

 個性とは何だろう。普通とは何だろう。他人とは違う自分との葛藤から生み出されるこの物語には、生きづらいこの世の空気が充満している。交通事故によって負ってしまった体の傷。判断基準も不明瞭な美しさと醜さ。切っても切れない血縁。予想のできない偶然とあらかじめ用意された必然による支配。抗えない運命の中で揺らぎ続けるピュアな魂。もどかしい現実が光の粒子まで見えるようなリアルさで再現されている。


 どんなに道に迷い、深く傷つき苦しみながらも、人は決して一人では生きられない。誰もが誰かに寄り添いながら生きているのだ。目には見えない檻の中で、人肌の温もりを感じながら次第に解きほぐされる感情の糸。ささくれていた心が満たされて、モノクロの風景が鮮やかに色づく瞬間が確かに見えてくる。


 キャンバスの上でさまざまな色が溶けあって、パレットの中で足りない色を補いあい、「人生」という名のひとつの絵が完成する。とてつもない包容力があり、肯定感までも伝わってくる。止まない雨はないように、絶望の先には必ず優しい光が射しこんでくるのだ。癒しと救いがストーリーの随所から醸し出されており、悩める者こそ共感必至。この世に必要な一冊だと確信できる。


「多様性」という言葉では片づけられない。自分という存在を改めて見つめ直すような深遠な哲学を感じさせ、300ページに込められた尊いメッセージを全身に浴びることができる。鳥肌もののラストがとりわけ印象的で、これほど語り合いたくなる小説は稀有である。ぜひこの読後の余韻を多くの読者と分かち合いたい。


 比類なき才能とセンスを感じさせる著者の黒田小暑。小学館文庫小説賞を受賞した『まったく、青くない』(受賞時タイトル「春がまた来る」)でデビューしてから3年。本作は2作目とは思えないような熟練の業だ。語るに難しいテーマに果敢に挑み見事な小説世界にまで昇華させた。今後も非常に楽しみな作家である。これからの活躍にも大いに注目していこう。

現役書店員が今月「仕掛けたい!」と思う一冊は――
丸善名古屋本店 竹腰香里さんの一冊


『名探偵のままでいて』

小西マサテル 宝島社


孫娘の楓が次々と持ち込む謎を、レビー小体型認知症を患う祖父が華麗に解決! 楓の出生も絡み、謎解きだけでは終わらない驚きの展開に。ふたりの絆に涙が止まりませんでした。古典ミステリーへのオマージュもちりばめられ、マニアにはたまらない一作です。

大垣書店イオンモールKYOTO店 井上哲也さんの一冊


『カプチーノ・コースト』

片瀬チヲル 講談社


強風で波打ち際に現れるさまざまな成分に富んだ泡。波の花。早柚が拾い上げるその一片は、誰かの心に溜まった澱なのかも知れないし、ただの時間潰しに過ぎないのかも知れない。人生色々。でも私は確かに癒された。

ときわ書房本店 宇田川拓也さんの一冊


『バールの正しい使い方』

青本雪平 徳間書店


全国の文芸ファンのみなさん、青本雪平と本作にご注目を! 少年が転校するごとに対峙する〝噓〟の苦い真相、意表を突く展開、ユニークな題名の真意、そして物語を愛するすべてのひとに見届けて欲しい結末。一読、惚れた。お願いだから読んでください。

丸善博多店 徳永圭子さんの一冊


『彼女はマリウポリからやってきた』

ナターシャ・ヴォーディン 白水社


ウクライナ出身の母が語らなかった人生が明らかになるにつれて、家族の歴史がカードのように裏返っていく。強制労働者の子として背負ってきた不安な過去を最後まで降ろすことなく、国家や独裁者の趨勢に翻弄された生命の足跡を追った小説。

紀伊國屋書店横浜店 川俣めぐみさんの一冊


『踏切の幽霊』

高野和明 文藝春秋


夜中の1時3分に鳴る電話って怖いですよね? ただでさえ怖いのにそれが幽霊からの電話だったら? ゾクゾクする心霊話と社会派ミステリーが融合したようなストーリーに震える。下北沢の踏切で亡くなった「彼女」は一体何者で、なぜ殺されたのか。ラストがひたすら切ない。

うなぎBOOKS 本間悠さんの一冊


『ばくうどの悪夢』

澤村伊智 KADOKAWA


創作において取り扱いが難しいとされる「夢オチ」を巧みに織り交ぜる展開は、読者がまさに「ばくうど」の術中にいるかのような没入感を生み出す。私もまんまと騙されました。大傑作!

丸善丸の内本店 高頭佐和子さんの一冊


『ギフテッド』

藤野恵美 光文社


高い知能を持つ少女が、超名門大学出身の伯母の指導で受験に挑む。共感できなそう、と思った人も読んでほしい。自分の道を選ぶことの難しさは、天才もそうでない人も同じなのだ。物語は、一歩を踏み出す勇気をくれる。

紀伊國屋書店梅田本店 小泉真規子さんの一冊


『骨灰』

冲方丁 KADOKAWA


大都市東京の地下に眠る怪異と恐怖のあまりのリアルさに、ページをめくる間ずっとのどの渇きが止まらなかった。

この書評は、「小説現代」2023年2月号に掲載されました。

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