〈結果発表〉第67回江戸川乱歩賞 受賞作発表&選評

文字数 2,421文字

2021年1月末日の締め切りまでに、386編の応募があった今年の江戸川乱歩賞は、そのうちの68編が1次予選を通過しました。続いて2次予選を通過しました29編から、5編が最終候補作として審査され、以下の2作に受賞作が決定いたしました。

予選委員は、1次は講談社が担当、2次は香山二三郎、川出正樹、末國善己、千街晶之、廣澤吉泰、三橋曉、村上貴史の七氏。最終選考は、綾辻行人、新井素子、京極夏彦(日本推理作家協会代表理事)、月村了衛、貫井徳郎の五氏(敬称略、五十音順)。

最終候補作品

「キッドナップ・ショウ」 日野瑛太郎

「センパーファイー常に忠誠をー」 伏尾美紀

「ドロップトキシン」 水谷朔也

「夜が明けたら」 箕輪尊文

「老虎残夢」 桃ノ雑派


受賞作品


「北緯43度のコールドケース」(「センパーファイー常に忠誠をー」改題)

伏尾美紀


「老虎残夢」

桃野雑派(投稿時 桃ノ雑派)

受賞の言葉    


 アメリカのデジタルメディアが、こんな興味深いアンケートを実施した。「あなたにとって最大の後悔とは?」というものだ。多くの答えに共通していたのは、「しなかったこと」だった。何をしたいかは人それぞれだ。私にとっては、この江戸川乱歩賞に応募することだった。チャレンジして、二つわかったことがある。一つは、今ここで書かなければ、もう一生書けなかっただろう、ということ。そしてもう一つは、十年前、いや五年前の私が書いたとしても、今回のような物語にはならなかっただろう、ということだ。シェイクスピアの言葉を借りるなら、まさに「これまではプロローグ」であったのだ。

 だが、達成感に酔い痴れたのは一瞬だった。今はプロとしてやっていけるのかどうか、不安の方が大きい。それでも、これだけは言える。きっと私は、「いい人生だったな」と思って死んでいくことだろう。もちろんその日は、ずっと先であることを願っているが。

 これまでの人生で出会った全ての人に感謝したい。


伏尾美紀                    

受賞のことば


 小説家になると決めたのは三十六歳の時。

 当時はとある出来事から、仕事に対して嫌気どころか憎しみまで抱いており、なにもかもがどうでもよくなっていました。

 そんな時に甥が生まれると知り、この子が物心ついた時、父親の兄を恥ずかしい存在だと思わないようになりたいと、強く思いました。

 甥っ子の存在が、人生の落伍者同然であった僕を奮い立たせてくれたのです。

 投稿を始めてから四年、その間に姪っ子も生まれ、ますます何者にもなれずには死ねないとの思いで、歯を食いしばって来ました。

 甥と姪が、僕をまともな人生に、辛うじて踏みとどまらせてくれたのです。

 それどころか、江戸川乱歩賞というとんでもない場所に連れてきてくれました。

 弟夫婦も含め、どれだけ感謝しているか、筆舌に尽くしがたい想いがあります。

 次の目標は甥と姪が「ゼルダの伝説」以上に夢中になってくれる小説を書くことです。

 敵はあまりにも強大で、僕自身もその面白さに膨大な時間を奪われていますが、必ず叶えてみせると、この場を借りて約束させていただきます。

 最後になりましたが、今回の選考に関わられたすべての関係者様、選考委員の皆様、そして家族に深く感謝いたします。


桃野雑派

受賞作概要 「北緯43度のコールドケース」


 沢村依理子は、社会科学の博士号を持ちながらもとある事件を機に大学を辞め、三十歳で北海道警察の警察官となった。順調に出世し、いまは警部補昇進を機に、「現場研修」の名目で所轄の強行犯係へ配属されている。

 ある日、五年前未解決に終わっていた誘拐事件の被害者、島崎陽菜の遺体が発見される。犯人と思われる男は身代金受け渡しの際に事故で死亡しているため、共犯者がいたということだ。今度こそ事件を解決すべく、当時捜査一課にいた瀧本巡査部長を筆頭に奔走するが、思うような進展は見られない。沢村は、五年前に唯一事件を目撃していた川上という女性への接触を試みるも、女性人権派弁護士・兵頭の抗議により阻まれる。勝手な捜査を行った沢村は捜査本部から外され、別の署の生活安全課へと異動となった。

 結局、事件は未解決のまま捜査本部は解散。しかしその二年後、陽菜誘拐事件の捜査資料の漏洩事件が起こる。捜査資料は、雑誌社、そして沢村の手元にも届いていたが、監察はなんと沢村を漏洩犯に仕立て上げようとした。沢村は、警察官という職にとどまる意味はあるのかと、将来を迷い始める。

 しかし、漏洩させた犯人が、自分に事件の解決を託しているのではと感じるようになり、ひとり再調査に着手。

 果たして、陽菜誘拐事件の真相とは。そして、警察官として、ひとりの女性として、沢村の選んだ将来とは。

受賞作概要 「老虎残夢」


 時は宋代、強者の武俠が集った中国八仙島。湖の中央に浮かぶ奇妙な建物・八仙楼では、拝師して十八年の女武術家・蒼紫苑が、日々鍛錬に勤しんでいた。ある日師父・泰隆が自分以外の武俠から一人を選び奥義を授けるつもりであると聞き、衝撃を受ける。泰隆は気脈の流れを操り増幅して攻守に反映させる「内功」の達人だが、紫苑は奥義の存在さえ知らされていなかった。

 奥義を授ける候補、蔡文和・楽祥纏・為問の到着を八仙楼に知らせたのは泰隆の養女・恋華。紫苑とは相思相愛の関係にあるものの、その恋は〈武林〉の掟に背くため、誰にも話すことはできず、二人だけの秘密であった。

 三人を迎えた翌朝、紫苑は八仙楼で、泰隆が死んでいるのを見つける。そばには毒の入った盃。内功の達人である泰隆には毒など効くはずがない。さらに、おかしなことに腹には匕首が刺さっていた──。泰隆が誰かに殺されたと考えた紫苑は、八仙楼と陸地を行き来する船を燃やし、三人の武俠を湖上に閉じ込めてしまう。

 伝えられることのなかった奥義の正体、泰隆の意外な過去を知る中で、紫苑はある恐るべき計画の存在に気付く。

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