〈結果発表〉第69回江戸川乱歩賞 最終候補作と2次予選通過作品の講評

文字数 2,799文字

第69回江戸川乱歩賞は、2次予選を通過しました21編から、4編が最終候補作として審査されることになりました。最終候補から惜しくももれた作品については、以下に講評を記します。

(予選委員は、1次は講談社文芸第二出版部が担当、2次は香山二三郎、川出正樹、末國善己、千街晶之、廣澤吉泰、三橋曉、村上貴史の7氏です)

なお、最終選考の結果はHP「tree」上と6月22日発売の「小説現代」7月号に掲載されます。

 

最終候補作品


「ホルスの左眼」     竹鶴銀

「籠城オンエア」     日野瑛太郎

「蒼天の鳥たち」     三上幸四郎

「おしこもり」      八木十五

以下、2次予選を通過した作品についての講評です。

※投稿時に投稿者様ご本人に入力・送付いただいた筆名・タイトルどおりに表記しておりますので、ご了承ください。

高峯砥山 「窮鼠の家」


ルポルタージュ、事件の再調査、公開討論番組と、形式・視点人物を変えて未解決事件の真相を解明する三部構成は面白い。ただし事前に入手していた真犯人からの告白の手紙で最後に真相を明かすのは安易。偶然の多用と生硬な告発者によるテーマの強調もマイナス。

才川真澄 「カオス・パレス」


ただでさえ登場人物が男性ばかりで区別がつきにくいのに、人格転移の繰り返しのせいで余計に読みづらい。東日本大震災というセンシティブな背景と、パズル的な人格転移も水と油。前年の最終候補作『神様の盤上』より完成度が落ちたので、奮起していただきたい。

平野尚紀 「氏名不詳者」


法廷での被告人の爆弾発言という開幕が魅力的。容疑者入れ替わりという困難なトリックを巧く成立させている。ただ、堅実だがやや地味な印象ではあるし、警察の信用を失墜させるためならばこれ以外にも何か手段があったのではと思わせてしまう点が弱い。

入谷眞琴 「仮想世界の君へ」


ゲーム世界での死が、現実の死につながるという設定は、都市伝説的な不気味さがあって読者の興味をひく。にもかかわらず、それを実現する手段にエレガントさがなく残念。魅力的な謎に相応しい、鮮やかな結末を考え抜いて欲しかった。

最上七花 「雪牢花」


一言で表現すると、限界集落を舞台とした『そして誰もいなくなった』。評価が確立した先行作との比較になるため、新人賞では不利になります。先行作に挑むなら、真正面から組むのではなく、少し捻るなどのアレンジが必要です。

抜元コウ 「桎梏の螺旋」


文章や人物造形は十分に高いレベルにある。シージャックがあっさり終わる点には物足りなさを少々感じたが、そこから結末までの展開が魅力的で、最終的には欠点にはならなかった。問題点として指摘されたのは、新薬の開発が一人の研究者に過度に依存している設定や、シージャック犯と乗客の人間関係に関する設定などに著者都合が感じられたところ。細部のリアリティが求められる小説だったので改善が必要だ。

今津勇輝 「ゆりかごの糸」


諸事情により育てられない新生児や乳児を匿名で預かる施設で過ごした過去を持つ児童相談所の職員が事件に巻き込まれる。取材の丁寧な社会派ミステリーで、評価する声もあった反面、ご都合主義的というか設定に無理があり、最後まで推しきれず。惜しまれる。

成神悠生 「No Rain, No Rainbow」


レイアウトが読みづらい。また「、」や「。」が行頭に来る点も直しましょう。文章を書く際のルールを再確認してください。初歩的な指摘で恐縮ですが、筆力はあるので、ルールを守り、読みやすいレイアウトの原稿で再度挑戦してください。

響木琢 「オパールの蛇」


二つのパートが並行する小説の作りも堂に入り、冒頭の摑みも上手いものです。文章に安定感があり、謎の脅迫状や怪しい館など、ガジェットの使い方も悪くない。ただし、終盤の種明かしにおざなり感があるのは残念。伝奇要素を評価し、最高点をつけた予選委員もいました。

青池勇飛 「十字架の天使」


連続猟奇殺人事件が発生。一人の刑事が快楽殺人ではなく、交換殺人の可能性に気付く。複雑な交換殺人を成功させる方法を推理する中盤までは悪くなかった。ただ探偵が語る登場人物の行動原理に説得力がなく、自殺を忌避したクリスチャンが売春している矛盾や、虐待やLGBTを取り巻く環境など深刻な問題を軽く扱っているのも気になった。

岸田怜子 「ホームレスJK、学校に住む。」


母親を亡くし、家もなくした女子高生が高校で暮らし始めるのだが、違法なので警備員に発見されるのを避けねばならない。このサスペンスが物語を盛り上げ、主人公が魅力的なこともあり、一気に読ませるドライブ感があった。その一方で、犯罪計画や意外な犯人が出てくるもののミステリ色が薄く、乱歩賞の応募作としては物足りなかった。

由和佐晴 「ホーリー テラー」


爆弾を装着させた中学生30人を遠隔から操って国会議事堂に侵入させたテロリストと警察の攻防に魅了され、結末までの展開も愉しめた。しかしながら、国会議事堂での攻防があっさり終わる点には評価が分かれ、それが同傾向の他の作品との比較においてマイナスとなり、落選に至った。とはいえ書き手としての力量は十分にあり、再挑戦を望む。

小川結 「神の轍」


自殺したはずの女から電話がかかってきたという中学校時代の友人の相談を受けた女性新聞記者が、謎解きに乗り出す。真相への持っていき方が予想の斜め上をいく、ヒネリのきいたサスペンス。もうあとひと押しだが、既存のルッキズムに頼っているところは気になる。

長大輔 「失踪難民」


外国人技能実習生問題を農家側から描いた珍しい例。ブローカーの意外な正体などミステリとしても上出来。最初はいけすかない印象だった人物の葛藤なども深く掘り下げられている。強く推したが、地味ということで他の予選委員の賛同は得られなかったのが残念。

森バジル 「探偵の悪魔」


様々な悪魔を組み合わせて駆使することで驚きを何度も感じさせてくれて十分に愉しく読めた。だが、選考会では、クランチ文体を用いる必然性に欠けた点と、驚きが後出しの情報に導かれたものである点、そして漫画と類似している点が問題として指摘され、最終選考進出を逃した。これらの問題を解消した新作に期待したい。

木村草子 「孤月の幻」


月面ホテルの実験施設で研究することになった農学者が連続殺人事件に巻き込まれる。オーソドックスなクローズドサークルものだが、悪く言えば設定も人物造形も月並み。乱歩賞作家・桃野雑派の『星くずの殺人』にインパクトで負けているのもバッドタイミング。

トシザキフミヤ 「リプレイスメンツ」


何が起きているのかという強烈な謎で冒頭から物語世界に引き込まれる。奇妙で不条理な即興劇として面白いが、ここまで巧くいくのかという疑問を払拭できるだけの作り込みが不足しているうえに、筋立てが未整理で全体像が摑みにくい。動機にも説得力がない。

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