制裁と救済を法と情で語る 円堂都司昭(文芸・音楽評論家)

文字数 1,035文字

第六十二回メフィスト賞を受賞した五十嵐律人『法廷遊戯』は、法律家の道を志す人々が通うロースクールを舞台に始まる。「セイギ」のあだ名で呼ばれる久我清義の過去を告発する写真と新聞記事が、校内で晒された。それは、織本美鈴にもかかわることだった。


久我は、結城馨 に無辜ゲームの開廷を申しこむ。無辜ゲームとは、スクールにある模擬法廷を使った私的裁判だ。被害を受けた告訴者が証人尋問や証拠調べを請求し、罪を犯したとする人物を指定する。審判者の心証と告訴者の指定が合致すれば、犯人に罰を申し渡す。無辜の相手に罰を与えようとした場合は、告訴者が罰を受けなければならない。  


後にスクールを修了した彼らは、再び深くかかわる。模擬法廷が現場となった殺人事件に関し、無辜ゲームでは証人だった美鈴が逮捕される。彼女の弁護を担当したのは、かつて告訴者になった清義だった。 


本作では、殺人事件をめぐる裁判がロースクール時代の無辜ゲームをふり返り、過去の裁判に再び光を当てることになるのが面白い。無辜ゲームの裁判官役は、審判者一人だ。また、検事役の告訴者に対し、被告は自身を弁護しなければならない。 下されるべき罰は被害と同じ程度とされ「目には目を」的な発想になっている。実際の裁判の仕組みを単純化してスピードアップしたようなルールなのだ。  


無罪と冤罪は意味が違うこと。刑事裁判の有罪率が高い日本では、検察や裁判官が過去の判決の誤りを認めたがらないこと。そのように法的な妥当性に基づく正しさや自分たちは無謬 だと譲らない姿勢が、事件当事者たちの思う正しさと異なることが語られる。登場人物の多くは法律関係者だが、痴漢冤罪詐欺を働こうとしていた女子高生、墓地に寝泊まりして花立や香炉を盗み売っていた被告などの脇役が、ユーモラスでいい味を出している。清義が知りあうことになる彼らは、罪を犯す側の理屈を語る。清義とのやりとりは、法律を解釈する立場と法律に詳しくない一般的な思考とのズレを読者に伝えることにもつながっている。


自身も弁護士を目指す司法修習生である著者は、物語展開のなかで法律や裁判のありかたについて様々な視点を提供する。そこで浮かびあがる制度の矛盾や運用の隙間が、犯行の動機や被告の態度の真意とも結びつく。裁判をめぐる議論がそのまま人間ドラマになだれこみ、制裁と救済が法と情で二重に語られる。そこが興味深い。注目すべき新人作家だ。

『法廷遊戯』五十嵐律人・著

2020年7月15日発売予定  講談社

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