多士済々の法廷ミステリの世界に新星誕生 千街晶之(ミステリ評論家)

文字数 1,010文字

法廷ミステリの歴史は古く、作例は数多い。海外の古典的作品ならカーター・ディクスンの『ユダの窓』やアガサ・クリスティーの『検察側の証人』などがあるし、弁護士や検察官が名探偵として描かれるケースは、E・S・ガードナー作品に登場するペリー・メイスンあたりを代表として枚挙に遑がない。ゲームから始まって映画・アニメ・小説などに拡大した『逆転裁判』のような超人気コンテンツも存在する。近年では、円居挽の「ルヴォワール」シリーズや阿津川辰海の『名探偵は噓をつかない』のような「擬似法廷ミステリ」もしばしば見られる。  


さて、多士済々の法廷ミステリの世界に、新たな有力作家が出現した。『法廷遊戯』で第六十二回メフィスト賞を受賞した五十嵐律人である。一九九〇年生まれ、司法試験に合格した現役の司法修習生だという。もちろん、法律に詳しいからといって面白い法廷ミステリを書けるわけではないが、この新人の筆力は紛れもなく本物だ。


主人公の久我清義は、第一部ではロースクールに通う学生として登場する。このロースクールでは、天才的な学生・結城馨の主催で、「無辜ゲーム」という模擬裁判が行われていた。清義はこの法廷で、過去の出来事から自分を誹謗する文書の書き手を馨に裁いてもらおうとする。その過去は、清義と同じ児童養護施設出身の学生・織本美鈴とも関係していた。  


この第一部では清義の身の回りで起きたさまざまな出来事が描かれたあと、ロースクールを修了した清義・美鈴・馨の運命 が再び絡み合う。そして第二部では、清義はかつてのような模擬裁判ではなく本物の法廷で、弁護士として被告人の無罪を証明しようとするのだ。


本書のミステリとしての大きな特徴は、無駄なエピソードが一切ないということである。普通、少しは本筋から逸脱した部分があるものだが、本書の場合は一見無関係なエピソードも、第二部に入るとすべてパズルのピースとしてあるべき場所に収まるのだ。この徹底した機能美には圧倒されるしかない。


そして、前半は先に述べたような「擬似法廷ミステリ」、後半は本格的な法廷ミステリ――という構成は、恐らくミステリ史上類例がない筈だ。しかも、法律に関する知識や真摯な考察と、外連味たっぷりな劇的エンタテインメント性とを両立させているのだから、これは無敵と言っていいだろう。驚異のデビュー作を是非読んでほしい。

『法廷遊戯』五十嵐律人・著

2020年7月15日発売予定  講談社

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