リーガルミステリーの新鋭は、大胆不敵にしてクラシック 吉田大助(ライター)

文字数 1,038文字

「法廷もの」とも呼ばれるリーガルミステリーの歴史に、新たな傑作が加わった。第62回メフィスト賞受賞作、五十嵐律人の『法廷遊戯』だ。著者は現役の司法修習生であるという。


2部構成が採用されている。「第1部 無辜ゲーム」は、底辺ロースクールの学生たちの間で不定期に行われている、カジュアルな裁判ゲームの様子が描かれていく。裁判長席に座るのは、既に司法試験に合格している神童・結城馨。この日、語り手の久我清義(「僕」)は、告訴者として初めてゲームの法廷に立った。16歳の時に犯した罪を暴くビラが、自習室でばら撒かれたことに対する名誉毀損を訴えたのだ。いわば検事として裁判に参加し、クラスメイトからの証言も得て、犯人の名を宣告。結城馨が犯人にくだした「罰」は――。


わずか25ページでいきなり一発トリックが炸裂し、擬似とはいえ法廷の緊張感も味わえて、罪と罰のバランスという思弁にも触れることができる。しかも、語り手のダークな過去が匂い立つおまけ付きだ。序盤から畳み掛ける手の早さに驚かされたが、読み進めていくうちに唸らされたのは、手数の多さだ。第1部だけでも幾つもの裁判ゲームが進行し、やがて辿り着くのは本物の殺人事件。ブラックアウトののちに物語は第2部として再起動するのだが、ミステリー作家としての手数の多さ、ドラマ作家としての引き出しの多さが、第1部以上に矢継ぎ早に展開されていく。

 

リーガルミステリーの傑作と呼ばれるためには、どんな法律を物語のメインに据えるかがキモとなる。世間であまり日の当たっていない、けれど小難しすぎない法律を持ってこられるのがベストだが、それらはとうに食い尽くされている。第2部の終盤の展開は、現代作家のとあるリーガルミステリーを参照しつつ、それを乗り越えようとしているのは明らかだ。つまり、著者は現代のリーガルミステリーが何を描いてきたかについて、無自覚ではない。


専門的な話題は基本軽やかに、でも時おりあえて難しいままに書く(実はその方が理解しやすかったりする)、というバラ ンス感覚に優れた著者は、ではどんな法律をメインに選んだのか。具体的には2つあるのだが、どちらも新しさとは程遠いものだ。しかし、アレンジ次第で現代でも十二分に輝かせることができると、著者は証明してみせた。  

どこかクラシックでありながら、これぞ新人、の大胆不敵さも併せ持つ。まだまだいける。次なる傑作も楽しみにしています。

『法廷遊戯』五十嵐律人・著

2020年7月15日発売  講談社

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