第4回/地方と都会の格差は足腰強度にあらわれる
文字数 2,815文字
ひきこもり、そして金(カネ)と語り倒したジェダイ・マスターの新しいテーマは…
格差!
熱くなりがちなこのテーマに、戦など起こさず、肩の力をぬいてゆるりと冷静に挑む──!
私は出生、就学、就職、結婚全てを地元で済ませており、今後も樹海という選択肢の登場、もしくは何故か故郷から遠く離れた下水で発見などのイレギュラーが起きなければ、死亡まで地元で済ませる可能性が高い。
もはや紗音琉ちゃんの第二の相棒「華麗砂羽ちゃん」として登場していいぐらい地元最高!な人生を送っているのだが、現在2か月に1回の頻度で取材のため上京している。
私の地元から東京までは飛行機の距離だが、大体日帰りであり、むしろいかに早く帰宅するかRTAに挑戦していると言っても過言ではなく、先日12時に東京入りし、16時の飛行機で帰るという新記録を樹立した。
そもそも、できるだけ東京には行きたくないと思っている。
よってコロナの時は「田舎ゆえ、私が東京からウィルスを持ち込んでしまったら、杉本のように家に火をつけて出奔、もしくは刃牙ハウスになる」と言って上京を拒んできたし、終息気味になってからも「高齢の親族がいるので、少しでも感染の可能性があることは避けたい」と言って3年は粘った。
実際に私には90を過ぎた祖母がいるのだが、同居しているわけではないので、私の唾が20㎞以上の飛距離をたたき出さない限り安全であり、結局ババアは私とは全く無関係にコロナに罹り、普通に治った。
しかし、そろそろ言い訳も尽きてきたため、去年あたりから嫌々上京を再開している。
この話を地元ですると高確率で「せっかく東京に行くのに日帰りなんてもったいない」と言われるし、「仕事で東京に行けるなんて羨ましい」と言われることさえある。
未だに田舎の人間にとって、東京などの都会は魅力的な場所ということだ、つまり「地方と都会」も格差の一つということである。
私は前述のように、都会より地元にいたいと思っている派だ、これで本当は都会の方が好きというなら、ツンデレとしても常軌を逸している。
しかし、若いころは都会が羨ましかったし、仕事で上京の際には、せっかくだから冷たい石の上で捏ねるアイスを食いに行ったりもした。
だが現在は、地元でも買える”いろはす”のペットボトルを握りしめ、フライト時間までトム・ハンクスみたいな顔で、羽田のロビーから微動だにしなくなっている。
おそらく、地方と都会の格差は若いほど感じやすいのではないだろうか。若い時ほど田舎を退屈に感じ、都会に憧れるのである。
現在私がなぜ東京に行きたがらないかというと「疲れる」からである。
おそらく、都会者と田舎者では「足腰強度」にかなりの格差が発生すると思われる。
田舎は移動手段が木から木への飛び移りしかないため、都会者より田舎者の方が体力がありそうなイメージがあるかもしれないが、イオソに支配されているレベルの田舎だと、全ての移動を車で済ませようとするため、体力もなければ足腰も弱いのだ。
若さでカバーできるうちはまだ良いが、30半ばを過ぎたあたりから、空港を脱出するだけで息が上がり、京急線で座れなかった時点で詰むため、せっかくだからどこかに行こうという気が起きないのだ。
半強制的に徒歩を余儀なくされる都会者と違い、田舎者は意識的に鍛えようと思わなければ体力がつかないため、田舎の方が意識の高低による健康格差が大きくなりがちな気がする。
また「進路」という意味でも、若者の方が地域格差を感じやすいと思われる。
田舎は進学先も就職先も選択肢が狭い。学びたい分野や職種によっては都会に出ることがマストとなるのだが、家庭の事情などでそれが叶わず、夢を諦めなければ場合もある。
よって、ヒップホップに興味がなく、悪そうな奴とは一生関わりたくないと思っている人間でも、「東京生まれ」の部分だけは死ぬほど羨ましいという地方民はまだ多い。
つまり、やりたいことや向上心がある若者ほど地域格差を感じやすく、逆に、やりたいことが特にない、または地域関係なくできることを志している者は、田舎でもそこまで不自由や不満を感じないと言える。
田舎で結婚し、家を建て、アルファードに乗ってそこそこ幸せそうに見えるのは、おそらくこの層だろう。
それに現在はリモートワーク化が進み、昔に比べれば上京必須な職業は減ってきていると思われる。
漫画家も昔は上京が必須のような感じだったが、現在では私のように地方在住の作家も珍しくはない。
つまり若さもなければ都会でやりたいこともない現在、私が都会に出たい理由も皆無なのだが、もっと老になったら再び都会が羨ましくなると思う。
もちろん老後にやりたいことができるからというわけではない。今より部屋で虚を見つめている時間が増える、もしくはリタイヤすることもできず、カラーコーンの代打として路上に立つバイトをしながら虚を見つめているかの二択だろう。
しかし、老になると都会の「車を持たなくてもいい」という特権がさらに輝きだすのだ。
老の運転ミスによる事故は定期的に起こっており、その度に老に対し免許返納が促されるのだが、田舎の老は免許を返納した後、徒歩圏内に何もない土地でどう暮らすかの目途が全く立っていないので、返すに返せないという現実がある。
この問題が解決しないまま、さらに高齢化が進めば、我が村もコンビニに突き刺さるハイブリッドカーが名物と化すだろう。
それも自損だけで済めば良いが、人を死傷させてしまう恐れもあるのだ。
田舎住みは晩年になって加害者になってしまう可能性が都会住みより高い、というのはなかなか大きい格差である。
カレー沢 薫(かれーざわ・かおる)
「漫画家にして会社員にして人妻」改め、無職兼作家。生まれて初めて投稿した漫画が、新人賞で落選したにもかかわらず連載化。プロレタリアート猫ちゃん漫画『クレムリン』として話題作となる。独自の下から目線で放つコラム&エッセイにもファンが多い。漫画作品に『ひとりでしにたい』(第24回〈2020年度〉文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞受賞)『いきものがすきだから』『アンモラルカスタマイズZ』『ニコニコはんしょくアクマ』『やわらかい。課長 起田総司』『ヤリへん』『猫工船』、エッセイに『負ける技術』『もっと負ける技術』『負ける言葉365』『ブスの本懐』『女って何だ?』『やらない理由』『猥談ひとり旅』『モテの壁』『なおりはしないが、ましになる』『下ネタの品格』などがある。