第3回/夏休みの思い出格差はわりと深刻ゆえ

文字数 2,519文字

稀代にして奇態、現代を生きる伝説の漫画家・カレー沢薫の tree 新連載がスタート!

ひきこもり、そして金(カネ)と語り倒したジェダイ・マスターの新しいテーマは…


格差!


熱くなりがちなこのテーマに、戦など起こさず、肩の力をぬいてゆるりと冷静に挑む──!

現在夏休みの真っ最中である。


そう言っては見たが、私のような中年しか生息しない家に住み着いている名誉無職には、全く関係ない話であり、念のためもう一度考えて見たが、本当に1ミリも関係なかった。


しかし、同じ中年でも、家に子どもがいる家庭にとっては大いに関係ある話であり、ある意味、夏休みを送る子供当人よりも大きな影響受けると言う。


並み居る子供を押しのけて、今年こそヘラクレスオオカブトを捕獲しようとしている中年がいるというわけではない。


学校がない間、子供の安全や食事などをどう確保するかが親の悩みのタネになっており、当然ここにも格差が発生する。


まず、専業主婦ないし主夫がいる家庭、共働き、シングルとでは夏休みというクエスト難易度がまるで変わってくるはずだ。


昔なら同居や近隣の祖父母に預けるという手もあったかもしれないが、核家族化が進む現代において、それらはすでにレアアイテム化している。


また当然ジジババ間にも格差は存在する。


定年退職後、孫の面倒を見ながら悠々自適という、もはや都市伝説みたいな老後を送る老もいれば、年金だけでは食っていけず、花火大会の駐車場交通整理バイトで孫預かってる場合じゃねえ老もいるのだ。


よって子守を外部に委託することになったりもするのだが、どれだけ外注できるかも「経済格差」という、最も巨大な格差により変わってきてしまう。


このように夏休みになると、経済格差、家族構成格差、地域格差など、子育て家庭内に潜む格差が特に顕著になるのだが、最近は「パートナーの協力格差」の不満もよく見かけるようになった。


現在、日本は男の育休取得促進など、男性の子育て参加に力を入れているのだが、過渡期ゆえに、子育てに協力的な夫と非協力的な夫の差がかなり開いているように見える。


昔であれば、夫が育児に非協力的であっても、どこの家もそんなものだったため、少なくとも格差は感じづらかったのである。


よってSNSでも、非協力パートナーを引いてしまい、フルタイム共働きワンオペ育児、という不可解な状況に陥ってしまった人の嘆きを良く見かける。


そんな愚痴に対し、一番精神的にクるのは、独身者や子なしによる「好きで産んだんでしょ?」や「私は子供作らなくて正解だった」という煽りではなく「うちの夫君はこんなモラじゃなくて本当に良かった、今日も子ども連れてイオソ行ってくれた旦那にマジリスペクト感謝」とラッパー引用リプがつくことらしい。


そうは言ってもシングル家庭よりはヌルいだろうと思うし、確かにシングルは経済的にはかなり厳しいらしい。


しかし精神的には「元から戦力になってなかったし、最初から期待しなくて良くなった分、むしろ楽になった」という意見も多いので、協力格差によるストレスは相当深刻なようだ。


このように、大人同士は独身既婚入り乱れて、夏休み期間中無限に対戦カードを組むことができるのだが、夏休みの格差は子供にも波及しているらしい。


多くの子どもにとって、学校に行かなくていいというだけで、夏休みは楽しいものだと思うが、そうではない子もいるようだ。


先日youtubeを見ていたら、間に貧困家庭を支援する団体のCMが流れて来た。


それに出てきた中学生の子は、夏休み中、昼間は電気代節約のため、妹を連れ図書館などの公共機関で時間をつぶし、家に帰ったらシングルの母親が帰って来るまで水道水だけ飲んで過ごしているそうだ。


こういう家にとっては、夏休みなど地獄でしかなく「給食」という一点突破があるだけ学校の方がマシなのである。


ここまで極端でなくても、夏休みは子供たちの間で「経験格差」が起こるという。


夏休みの間に旅行などレジャーを楽しむ家庭は多いと思うが、当然それらには金がかかる。


よって、夏休み中、海、山、行方不明展など、様々な思い出を作った子供と「無」になる子供の差が開いてしまうのである、絵日記の内容が毎日同じなのは31日にまとめて描いたからではなく、毎日描いた結果そうなっているのだ。


しかし、経験格差の要因の全てが親にあるというわけではない。


特に一定の年齢を越えてからは、親というより本人の気質、つまり「コミュ力格差」によるところが大きい。


実際、私は夏の思い出はと聞かれても「無」もしくは、存在しないはずの記憶として、ケツメイシのPVが脳内に流れるだけなのだ。


これは経済的な問題ではなく、どう考えても共にする友人がいなかったからである。


別に海や山に興味はないし、動物の死骸は外ではなく屋内で焼くに限ると思っている。


しかし「若いころの思い出格差」は年をとってからも引きずるので、機会があるのならば、若い時に海で動物の死骸を焼いておいた方がいいと思う 

カレー沢薫

山口県在住の漫画家・コラムニスト。最新作に『ひとりでしにたい』原作(講談社)など。

Twitterはこちら:@rosia29

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カレー沢 薫(かれーざわ・かおる)

「漫画家にして会社員にして人妻」改め、無職兼作家。生まれて初めて投稿した漫画が、新人賞で落選したにもかかわらず連載化。プロレタリアート猫ちゃん漫画『クレムリン』として話題作となる。独自の下から目線で放つコラム&エッセイにもファンが多い。漫画作品に『ひとりでしにたい』(第24回〈2020年度〉文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞受賞)『いきものがすきだから』『アンモラルカスタマイズZ』『ニコニコはんしょくアクマ』『やわらかい。課長 起田総司』『ヤリへん』『猫工船』、エッセイに『負ける技術』『もっと負ける技術』『負ける言葉365』『ブスの本懐』『女って何だ?』『やらない理由』『猥談ひとり旅』『モテの壁』『なおりはしないが、ましになる』『下ネタの品格』などがある。

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