~紀伊國屋書店から愛をこめて~ 凪良ゆう『汝、星のごとく』①

文字数 4,336文字

凪良ゆうを愛して止まない紀伊國屋書店の書店員さん達から届いた、最新刊『汝、星のごとく』と凪良さんへの熱烈なメッセージを、2回に分けてご紹介!

第一弾はこちらの方々です!

 すやすやとお昼寝している10ヵ月になる娘の横で、夢中になって読みました。

〝自分を縛る鎖は自分で選ぶ〟というフレーズが出てきます。私たちを縛る鎖はたくさんあります。親、子ども、地方と都市、恋愛、結婚、ジェンダー、世間の価値観、正義、病、お金……今を生きる私たちが必ずどこかで接し、隣り合ったり衝突したりしてしまうものたちです。それらを使って、この物語は読んでいる私たちをたくさん揺さぶってきます。だから、自分を縛る鎖について思わず考えてしまい、そして横に眠る娘にもあるだろう鎖についても考えさせられました。

 私自身は、奇しくも主人公の暁海たちと同様に瀬戸内海にある島で育ち、現在は島外で暮らしています。なので、夢中になれたのは暁海の〝自分が生まれ育った島を愛する気持ちと、島から出ていきたい気持ち。正反対のふたつがわたしの中で渦を巻いている〟という感情や、後半の〝自分を育んだ故郷の本当の美しさに胸が震えた〟というシーンが身に覚えのあるものだったことが理由のひとつかもしれません。もちろんそれだけではなく、暁海の、たくさんの鎖に縛られて身動きが取れなかったり、ぐらぐらと不安定になったりしながらも、矜持をしたたかに守りぬいて自分の人生を自分で生きようとする姿、つまりは自分を縛る鎖を自分で選んでいく姿にも魅せられました。

 多くの人に読まれてほしい物語です。特に、暁海のようにたくさんの鎖に縛られすぎて生きていて窒息しそうになっている人たちに読まれてほしいと思います。読んだ人たちにとって自分の人生を生きるうえでの防波堤にもなりうる物語です。そしていつか娘にも読んでほしい物語にもなりました。

川井菜愛(かわい・なちか)

ゆめタウン徳島店勤務。昨年8月に娘を出産し、現在は育休中。担当歴は文学・新書・人文書。香川県の小豆島で生まれ育ったため、暁海と自分を重ね合わせて読みました。

 わたしが凪良さんの作品と出会ったのは『流浪の月』で、発売前にプルーフ(販促用見本)で読ませてもらって「すごい作品に出会っちゃった! どうしよう!!」と思ったのをよく覚えてます。そこからこの本をどう売ろう? どうやったら届くんだろう? 届けられるんだろう? といろいろ考えた。それと同時に、読者として凪良作品がもっと読みたい! となり、一般文芸での過去作を探したけれど当時は『神さまのビオトープ』と『すみれ荘ファミリア』しかなくて、それまで読んだことのなかったBL(ボーイズラブ)小説にも手を出してしまいました。それらのBL小説もやっぱり凪良さんだなぁと思える作品で、ずぶずぶと凪良沼に落ちていきました。


 凪良さんの作品を読むと「普通」から少し外れてしまった人たちが多く出てくる。その度に「普通」って何だろ? と考える。


 普通であることが正しいことのように思われがちだけれど、本当にそうなんだろうか? 周りの人から見て不幸に思えることでもそれが自分にとって不幸とは限らないし、周りから見た幸せと自分にとっての幸せもちがう。


 そんなことを考えさせてくれたり、教えてくれたりするからこそ、凪良作品が……凪良さんが好きです。


 最新刊『汝、星のごとく』もそんな凪良さんらしい作品で、いままで以上に普通と違うという生き方を突きつけてくるように思う。感想を書こうとしても言葉にならないし、言葉にすると自分でもそうじゃない、それだけじゃないと否定したくなる、そんな文章にしかならない事がもどかしくてイヤになる。でもとにかく読んで欲しいと思う作品で、読んだ人と語りたくなる作品だと思う。


 月のように闇夜を照らしてはくれないかもしれないけれど、心に道標のように光る星が煌めくと思う。そうなればいいと思う。

川俣めぐみ(かわまた・めぐみ)

紀伊國屋書店横浜店で文芸書担当をしています。いつもカバンに本が2~3冊入っていて、重い! と言いつつ、本がないと落ち着かない小説(物語)偏愛書店員。

 凪良ゆうは愛の人だ。

 今までの作品を読むとそれがよくわかる。

 ファン歴3年足らずの私が何を偉そうに、と自分でも思うのだが、それでも読んだ作品すべてに凪良さんの優しさと愛がつまっているのを感じる。

 そして最新作『汝、星のごとく』にはそれが顕著に表れている。それは決して特定の誰かに向けたものでも、いわゆる常識的な正しいことでも、ましてや正しくないことを肯定しているのでもない。ただ、いろんな幸せのかたちを一切否定しないことで寄り添う優しさがそこかしこにちりばめられている。それは決して共感や同情を求めるものではないのに、なぜか何度でも胸に響いて心を鷲摑みにして離さない。

 ──愛と呪いと祈りは似ている──

 この一文を読んで、何かが胸にストンと落ちてわかった気がした。

 そうか、凪良ゆうは祈りの人なのだ。生きづらい人たちへの愛を、幸せを心から望み、請い願うことをし続けている人なのだ。だからこそ凪良作品を読むとこんなにも涙があふれて止まらなくなり、優しさに包まれているような気持ちになるのだろう。

 つらつらと書き綴ったものの凪良作品を語ろうなんて私には百年早かった。こんな拙い文章では何を伝えたいのかよくわからないかもしれないが、まずはとにかく読んで欲しい。読めばきっとわかる。あなたにも凪良作品が必要なことが。

小泉真規子(こいずみ・まきこ)

紀伊國屋書店梅田本店勤務。本格ミステリをこよなく愛しているがゆえにミステリでないと読まないらしいと出版社営業さんたちに噂されている……そんなことはありません。

 初めて出会った凪良先生の作品は、BL作品『あいのはなし』でした。大好きなイラストレーターさんの装画がきっかけのいわゆるジャケ買いです。

 思えばそれは、『流浪の月』の元になった作品。もしかすると運命の出会いだったのかもしれません。

 その後も、いくつかの作品を拝読しましたが、中でも個人的にとても好きな作品が『ショートケーキの苺にはさわらないで』と、そのスピンオフ作品『2119 9 29』でした。

 凪良先生の作品は、BLでも登場人物の関係性やストーリーで心を締め付けられるような切なさや、苦しさを感じる重めでシリアスな作品が多く、そんなお話に毎回心を鷲づかみにされてきました。

『流浪の月』に代表される先生の一般の文芸作品でも、一筋縄では行かない、切なさや苦しいまでの焦燥感がひしひしと伝わり、生きづらさやトラウマを抱える人達の、周りに理解されなくても、決して一言では表せない繫がり、その関係性の尊さ、弱く見えてどこか強くもある登場人物たちに、毎回号泣させられてしまいます。


『汝、星のごとく』の暁海と櫂もお互いに、周囲の人間からは理解され辛い家庭環境で、何かが欠落した者同士が共鳴するように求め合い、すれ違って離れ、それでもやっぱり心の奥で繫がっていて……。

 後半の展開はあまりにも苦しくて、途中でページを閉じてしまった程涙が止まりませんでしたが、最後には星の光が見えたような気がしました。


 私は今年4月の末にこれまで出たことのなかった関西から海を渡り、松山市内の店舗に勤務し始めて約3ヵ月が経ちました。

 この作品の舞台が瀬戸内の離島と愛媛県今治市と知り、地元の方の方言や、まだ訪れることのできていない島々、橋のこちら側の今治、そして松山空港や市内を走るバスや電車などを思い浮かべながら読んでいました。

 地元のスタッフから教わる、こちらの花火大会の様子などを聞くにつけ、ますますこの作品が身近なものに変わっていきました。

 今年は松山の花火大会も開催されることが決定されました。今治、松山の花火が見られたら、きっと私は暁海と櫂のことを思い出して泣いてしまうでしょう。

 夏の暑さが落ち着いた頃、島へも行ってみたいと思います。

 聖地を巡り、作品にもう一度触れなおしたら、もっと彼らのことが愛おしく、私にとっての特別な作品になるはずです。

笹倉宏美(ささくら・ひろみ)

関西地区の数店舗で勤務し、今年4月末、いよてつ髙島屋店に赴任。主な棚担当歴は、自然科学、看護書、社会科学、児童書、文学、雑誌など(最近視力の低下に悩んでいます)。

 7月10日に選挙がありました。

 その過程において、悲しい事件がありました。以降、多くの人が「日本は」「日本人は」と大きな主語で物事を語り、それ以上に現実は混沌としていました。こんなとき、小説は無力なのでしょうか。本当はもっと純粋にこの物語の素晴らしさを伝えたいのに、私は何故かそのことばかりを考えてしまうのです。


 暁海と櫂と、その人生にまつわる人たちの何でもない物語。ありもしない生の、ありもしない喜びと哀しみを想像して、一行また一行と読み進む度、込み上げてくる嗚咽はやはり偽物で、意味も価値もないものなのでしょうか。


 私は──

 そんなことはないと思う。

 凪良さんの描く、小さく、弱く、けれど確かな意思を持って、自分を生きていく人たちを想い、その声に耳を傾けることは、たとえそれが小説という虚構であっても、いいえ、どんな世界であっても等しく大切なことです。

 海の向こうの止むことのない銃声も、我らの隣人が起こした凶行も、私やあなたの正しさが答えではないときにこそ、閉じていく世界の扉に手を掛けなくてはいけません。この作品を読みながら、誰もがみな、傷だらけで、生きているのだと思いました。そして、自分自身もまた許されて、赦されて、どうにかここに立っているのだと思います。だから、暁海や櫂が、北原先生が、もし存在してくれるなら、彼らに何の迷いもなく手を差し伸べることのできる人でありたい。そうして伸ばした手はいつかあなたのもとまでも届くと信じています。

竹田勇生(たけだ・ゆうき)

紀伊國屋書店浦和パルコ店店長。新宿南店勤務時より、文芸書を担当。西武渋谷店、新宿本店を経て現職。年に一度書店員仲間と、その年の推し本を語り尽くすイベントに登壇しています。

初出:「小説現代」2022年9月号

『汝、星のごとく』

凪良ゆう

講談社 

定価:1760円(税込)


風光明媚な瀬戸内の島に育った高校生の暁海と、自由奔放な母の恋愛に振り回され島に転校してきた櫂。ともに心に孤独と欠落を抱えた二人は、惹かれ合い、すれ違い、そして成長していく。生きることの自由さと不自由さを描き続けてきた凪良ゆうが紡ぐ、ひとつではない愛の物語。本屋大賞受賞作『流浪の月』著者の、心の奥深くに響く最高傑作。

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色