6冊目/アチェべの『崩れゆく絆』

文字数 1,468文字

独自WEBメディアやYouTube、はては地上波ゴールデンまでーー。

幅広く活躍の場を広げ続ける東大発のクイズ集団「QuizKnock」。


その人気ライターである河村・拓哉さんが初の書評連載 『河村・拓哉の推し・文芸』!


第6冊目は、光文社古典新訳文庫よりアチェべの『崩れゆく絆』です。

僕がこの本を買った理由は二つあって、まずは読書家の友人の絶賛です。問題はもう一つの方で、こっちはずいぶん下衆な話であります。


本の題名を調べたらアフリカ文学だったのです。具体的なアフリカ文学の作品名をそれまで聞いたことが無く、だから買いました。つまりは物珍しさです。


物珍しさを感じたことの中に、僕は二つの未熟を見つけ、今では反省しています。


第一には、単純にアフリカ文学を珍しいと思ったこと。つまり、アフリカ文学の少なさについて何も考えていなかったことです。


わざわざヨーロッパの名作の列挙はしませんが、よく知られたアフリカの作者の作品が比して少ないことは感覚的に頷いてもらえるのではないでしょうか。


これは単に歴史の時間的短さの問題です。『崩れゆく絆』の原著発行は1958年で、星新一『ボッコちゃん』と同じ年。これが光文社古典新訳文庫から「古典」として出されています。


この年代がアフリカ文学の黎明期です。小説というのは、そもそも限られた地域の文化だったのです。


第二には、より悪いことですが、物珍しさという視線が、差別的であることに気づかなかったことです。


偏見は忌むべきもの。アフリカが舞台だからという理由で、何か特殊な、我々と違うものが描かれると予断していませんか。純朴で野性味のあるものを期待していませんか。


残念ながら僕だけの問題ではありませんでした。ヨーロッパ人により、過去多くの「アフリカを描いた小説」が書かれました。多くが偏見に満ちたものでした。アフリカ文学は、だからこそ、この視線に立ち向かうことを自らに課したのです。


『崩れゆく絆』には偉大な二つの成功があります。


小説という手段の中にアフリカ的表現を成功させたこと。アフリカの作者自らがアフリカを題材とすることに成功したこと。偶然にもこの二つは僕の無知をたしなめてくれるものでした。


主人公のオコンクウォは、ウムオフィア村に住む勇敢な戦士。土着の習俗が根付く村に、キリスト教という破壊者がやってきて……というあらすじ。前半で丁寧に丁寧に描かれた世界が後半バラバラと崩れ落ちていく描写には胸が締め付けられます。物語が単純でないことも拍車を掛けます。悲劇の原因は西洋から来るばかりではないし、異教が救いとなる人もいる。奥深い作品です。


翻訳の粟飯原文子先生の充実したガイドも、この本を自分の中に位置づける助けとなります。心の本棚に加えたい一冊ですから、ありがたい限りです。

書き手:河村・拓哉

YouTuber。Webメディア&YouTubeチャンネル「QuizKnock」のメンバーとして東大卒クイズ王・伊沢拓司らと共に活動。東京大学理学部在籍。Twitter:@kawamura_domo

★次回は3月3日(水)公開です。

★担当編集者のおすすめQuizKnock動画はこちら
★tree編集部のおすすめ記事はこちら
★QuizKnockのWEBサイトは↓のリンクから!

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色