8冊目/佐藤友哉の『転生! 太宰治 転生して、すみません』

文字数 1,470文字

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その人気ライターである河村・拓哉さんが初の書評連載 『河村・拓哉の推し・文芸』!


第8冊目は、佐藤友哉の『転生! 太宰治 転生して、すみません』です。

むかし、先輩が、「河村は太宰のような文を書く」と言いました。


当時は、いえ今もそうですが、太宰をあまり読めていませんでしたから、不思議に思ったものです。とはいえせっかく思い出した話ですから、書評の文を、少し太宰に寄せてみたいと思います。


三つの要素が分からない人には、買いづらい本だと思います。


一番目は、「転生」。


ライトノベルの、いわゆるなろう系に顕著な、舞台装置です。現代社会に生きる主人公が、突然死んでしまって、異世界に生まれ変わる。人格や記憶を引き継いで、けれども人生のしがらみを全て捨てて、新たな生を闊歩する。ギミックとして、優れすぎていましたから、濫用されて、陳腐、内側から見ればノルマ、外側から見ればギャグ。転生とはそういうものだと理解しています。


二番目に、「太宰治」。


この本の主人公は、太宰治です。太宰の一人称で書かれています。太宰作品から太宰らしさを抜き出して、そのまま書いたような文章ですから、いちばん、太宰。そんな小説だから、当然、氏について詳しいほど面白く読めます。けれども、とりあえずは、「芥川賞を憎んでいる、死にたがりの大文豪」の理解で、足りる。そんなに難しく考えなくていいのではないかしら。


最後に、「ダサさ」。


表紙! 表紙がダサい。転生に太宰を接いだちぐはぐさのおかしみを、余すところなく表現している。だからこの表紙でなければなりません。冗談を説明してしまうのは、野暮なことだけれども、表紙で敬遠するのは、だめ。題名からの素直な帰結として、この味になるのです。


そういうわけで多少人を選ぶ作品なのだけれど、読めば面白い。


1948年に入水自殺した太宰治が、気づいたら2017年に居た、というおはなし。


全編が、お道化のサーヴィス。太宰が現代日本に転生することで生まれるシュールさを書ききっている。『太宰、メイドカフェで踊る』の章など、他の本ではまず読めません。


こういうおふざけは、真顔でなければなりません。証拠に、表紙の太宰は、笑っていません。ネオンカラーに囲まれて、つまらなそうにしている。これが、一流の態度です。


作者の佐藤友哉先生は、最近では純文学をメインに活動されているそうです。そうでなくてはなりません。この小説は本質的に、太宰にしか書けないのですから。文体模写が、この文章なんかより、ずっと、真剣で、上手。


だから、あなたが最後に読んだ太宰風の文章が、この書評であるのは、かわいそうなことです。

書き手:河村・拓哉

YouTuber。Webメディア&YouTubeチャンネル「QuizKnock」のメンバーとして東大卒クイズ王・伊沢拓司らと共に活動。東京大学理学部在籍。Twitter:@kawamura_domo
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