第15回 SATーlight 警視庁特殊班/矢月秀作 

文字数 2,335文字

累計100万部超の大人気シリーズ「もぐら」でおなじみの矢月秀作さんがtreeで「SATーlight(警視庁特殊班)」を好評連載中!

SITやSAT(警視庁特殊部隊)よりも小回りが利く「SATーlight(警視庁特殊班)」の面々の活躍を描く警察アクション・ミステリー。

第2章に突入!地下アイドルの闇に迫るSATメンバー!


毎週水曜日17時に更新しますので、お楽しみに!

《警視庁特殊班=SAT-lightメンバー》


真田一徹  40歳で班のチーフ。元SATの隊員で、事故で部下を死なせてSATを辞めたところを警視庁副総監にスカウトされた。


浅倉圭吾  28歳の巡査部長。常に冷静で、判断も的確で速い。元機動捜査隊所属(以下2名も)


八木沢芽衣 25歳の巡査部長。格闘技に心得があり、巨漢にも怯まない。


平間秋介  27歳の巡査。鍛え上げられた肉体で、凶悪犯に立ち向かう。

「けど、あなたは運がいいかもしれませんよ」

 谷が言う。

「なんでですか?」

 芽衣が訊いた。

「ここは、業界の人が結構顔を出してくれるんです。懇意になれば、チャンスがあるかもしれない」

「そうなんですか!」

 芽衣はそらとぼけて、初めて聞いたふりをして目を丸くした。

「まあ、ここだけの話、癖のいい人も悪い人もいますが、それも運だし、それを生かすも殺すもあなた次第です。また、紹介してあげますから、顔出してください」

「ありがとうございます!」

 芽衣は頭を下げ、その勢いでジンライムを多めに飲んで咳き込んだ。

 その様子を見て、谷が笑みを濃くした。

「すみません!」

 芽衣はカウンターにこぼれた酒をおしぼりで拭いながら、思っていた。

 取り掛かりとしては上出来ね──。


     4


 平間が店に入って、十分ほどすると、アイリがやってきた。

 アイリの私服は、舞台と違い、ニットのシャツにジーンズといった簡素なものだった。セットしていた髪も解いていて、そこいらを歩いている普通の若い女の子にしか見えなかった。

 アイリは平間を見つけると、小さく手を振って笑顔を見せ、駆け寄ってきた。

「ごめん、待った?」

 声をかけ、隣の脚長椅子に腰掛ける。その様はまるで彼女のようだった。

「いや、そんなに待ってないよ。何飲む?」

「ビール。喉乾いちゃった」

 アイリはバッグを椅子の背もたれに引っ掛けた。

 平間は生ビールを二つ頼んだ。

「飲んでなかったの?」

「うん。アイリちゃんが来てから、乾杯したいと思って」

「優しいんだね、タクさん」

 アイリが身を寄せ、胸を軽く押し付ける。慣れた仕草だった。

 平間は照れたように少しうつむいた。

 ジョッキが二人の前に置かれた。平間とアイリはジョッキを持った。

「では、お疲れさまでした」

「今日も来てくれてありがとう」

 ジョッキを合わせ、ビールを飲む。

 平間は少し飲んだだけだったが、アイリは半分一気に飲み干した。

「あー、おいしい!」

 アイリは一息ついて、またジョッキを傾ける。二口で一杯を飲み干した。

「強いんだね、アイリちゃん」

 平間が笑う。

「いつも、ライブの終わりには飲んでるから、強くなっちゃった」

 屈託のない笑みを覗かせ、新しい生ビールを頼む。

「ここ、ウインナーとかピザがおいしくてね。頼んでいい?」

「いいよ」

 平間は口角を上げた。

写真:Paylessimages/イメージマート

 わざわざ聞いてきたということは、お代は平間持ちということなのだろう。おごられ慣れている感じもある。

 平間はアイリの仕草を見ながら、プライベートを推し量っていた。

 アイリは新しいジョッキのビールも三分の一ほど飲んだ。ようやく息をつけたようで、ジョッキを置いて平間に顔を向けた。

「今日はありがとう。ライブに来てくれて、ごはんにも付き合ってくれて」

「僕こそ、ありがとうですよ。あんなすごいライブを見せてもらえるとは思わなかったし、アイリちゃんと食事まで一緒にできるなんて。信じられないです」

 平間はまじまじとアイリを見つめた。

「もー、そんなに見ないでよ。恥ずかしいし」

 頬を膨らませる。

「あ、すみません……」

 平間はうつむいて、少し上体を離そうとした。すると、アイリは平間の袖をつまんで、自分の方に引き寄せた。

「ウソ。見てていいよ」

 そう言い、平間の腕を軽く握って離す。

 細かいところで、男心をくすぐってくる。私服でがらりと雰囲気を変え、プライベート感をより醸し出しているところもあざとい。

 それらの言動が自然に出るほど、男と接し慣れている様子が窺える。

 ウインナーが出てきた。大きめのボイルしたものだ。アイリは手際よくフォークとナイフを取り、一口サイズに切り分ける。

「あの……アイリちゃん」

「何?」

 フォークとナイフを持ったまま、笑顔を向けた。

「ちょっと聞いたんだけど……。その……シークレットライブは、常連さんしか呼ばないって本当なんですか?」

「ほんとよ。シークレットは、事務所通さないで、私たちが勝手にやってるライブだから、一見さんは入れないの。思いっきり、パフォーマンスしたいから」

 アイリはさらりと答えた。

この続きは来週水曜日に掲載! お楽しみに!

矢月 秀作(やづき・しゅうさく)

1964年、兵庫県生まれ。文芸誌の編集を経て、1994年に『冗舌な死者』で作家デビュー。ハードアクションを中心にさまざまな作品を手掛ける。シリーズ作品でも知られ「もぐら」シリーズ、「D1」シリーズ、「リンクス」シリーズなどを発表しいてる。2014年には『ACT 警視庁特別潜入捜査班』を刊行。本作へと続く作品として話題となった。その他の著書に『カミカゼ ―警視庁公安0課―』『スティングス 特例捜査班』『光芒』『フィードバック』『刑事学校』『ESP』などがある。

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