#30秒後にホロリSNSばなし②

文字数 2,612文字

炎上するアイドルと推しを描いたSNSサスペンス『#柚莉愛とかくれんぼ』(真下みこと・著)。

講談社文庫からの刊行を記念してtreeでお送りするのは、本作とは真逆の非炎上系ホロリSNSエピソード。今回もまたグッとくる3本をご紹介しましょう。

【KさんのSNSいい話】

大学の学園祭、出店で俺たち映画サークルは小籠包を売ることになっていた。


ところが何をどう間違ったのか、後輩がまさかの発注ミス。

200個仕入れる予定が、届いたのは2000個の小籠包。


ど、どうすれば……。

絶望に打ちひしがれていたところ、隣で出店をやっていたテニスサークルのチャラ男がやってきた。


「ウケるwww でもこれ、twitterでヘルプ頼めばなんとかなるんじゃね?」

チャラ男の協力のもと、出店におさまりきらない段ボールの山の写真とともに、困っているいる旨を半信半疑で投稿。


すると続々と人がやってきた…!

しかも彼らは買ってくれるだけでなく、さらに自分たちのtwitterでも窮状を拡散してくれた。

その結果、3日間の学園祭期間に無事に完売してことなきを得た。


SNS、あまり信用してなかったけど、twitterとチャラ男、恐るべしだ。

(編集部の片隅で)

A「人は見た目じゃないってことだね」

B「うんうん、雨の中で不良が捨て犬拾う的な」

C「たとえが昭和だなあ。でもこのチャラ男さん、まさに神だわ」

B「紙っていったらさあ」

C「なんだか強引。ダジャレも昭和」

B「この前、企画書を印刷してたら20人分じゃなくて、指定間違っちゃって200人分出てきたわけよ」

A「あちゃ~。でもオフィスあるあるだね」

B「180人分あまってるから、どこかの編集部に配ってみるか。『ウケるwww twitterでヘルプ頼めばなんとかなるんじゃね?』って神こないかねえ。全ボツだったとしても気にしない神が」

C「ただちにウケる企画を考えなさいよぉぉぉ」

【SさんのSNSいい話】

うちには「しめじ」という猫がいる。6歳のエキゾチックショートヘアーだ。

世間的には「ブサカワ」として好まれる猫種らしい。 


小学生の娘が欲しがった時は、よりによってどうしてこの猫なのだろうか、と思ったが、今ではすっかり愛着がわき、会社の若い後輩から無理やり始めさせられたインスタに「#今日のしめじ」と称して投稿する日々。


私の方がすっかりのめり込んでいる。

 

見ず知らずの人たちではあるが、「いいね!」やコメントの反応があるのも嬉しい。 


そんなある日、いつものようにしめじの写真をUpしたところ、

「なんだか小さいですが、少し背中が腫れていませんか?」

「すぐに病院につれていってあげた方がよいです」とのコメントが。


心配になった私はしめじを病院に連れていったところ、なんと小さな腫瘍が見つかった。

しかし、病状はかなりの初期。早期発見、早期治療で事なきを得た。


あんなに写真をとっていたのに、気づけなかったことがしめじに本当に申し訳ない。

コメントをくれた人たちにはいくら感謝してもしきれない。

(編集部の片隅で)

A「写真で病気まで発見してくれるなんて、みなさんは猫を見るプロばかり!」

C「他でもSNSで救われた小さな命がたくさんいたんでしょうね」

A「そういえば、編集部のYさんは仕事が詰まってイライラしてくると猫写真を見てるよね。癒やされて仕事がはかどるらしいよ。あっ今も」

B「うちには私という編集部員がいるじゃないか。××歳のチリチリヘアーで、部の女性陣からはひそかにブサカワと言われているに違いない。仕事をがんばってもらうために一肌脱いでくるか」

A「自信ありげにYさんのほうに向かって行ったね。大丈夫かな」

C「たぶん罵倒されるだけだから」

【HさんのSNSいい話】

僕の姪には生まれつき心臓に障害がある。

もうすぐ大きな手術を控えているのだが、日に日に落ち込んでいくのが手に取るようにわかる。


そりゃそうだ、高校生の僕だって尻込みしてしまうのに……。

不安と緊張を6歳の小さな身体で必死に受け止めているのだ。


なんとかして姪を元気づけたい――。


僕はtwitterで、姪の写真とともに、彼女が大きな手術を控えている、どうか応援メッセージをもらえないか、という旨のツイートをした。


するとどうだろう、みるみるリツイートされるとともにコメントが増えていく。


同じ病気で苦しんでいる男の子や、同じく手術を控えている主婦、病気を克服した青年、果ては初めての入院で不安をかかえるお年寄りまで、老若男女、あらゆる人から応援コメントや動画が届いた。


届いた数々の温かい声が姪を支えてくれたのだろう。彼女は無事に手術を乗り越えてくれた。


(編集部の片隅で)

C「病気の話を見聞きすると応援したくなるし、その頑張っている姿に自分自身も勇気をもらえるのよね」

A「同じ病気の人たちがSNSでつながることもあるんだって。語り合うことで精神的な苦痛が和らいだり、有益な情報の交換ができたりするらしい」

C「世界はあたたかさに包まれてるって、身近に感じられるのもSNSの良さかも」

A「ますます手放せなくなるなあ」

C「だからこそ、SNSの怖い一面も知っておいたほうがいいわ、『#柚莉愛とかくれんぼ』で」

B「ぼ、ぼ、僕も勉強しようかな」

A「なんでBさんは震えているの?」

C「BさんはSNSだけじゃなくて、Yさんの怖さも勉強したほうがよかったみたい

真下みこと『#柚莉愛とかくれんぼ』

講談社文庫より発売中!!

推しの心に触れたくて書き始めた小説は、

思いもよらない結末を迎えました。

ーー真下みこと

3人組アイドルグループのメンバー・青山柚莉愛。

メジャーデビューを目指すも売り上げ目標を越えられず焦る日々。

ある日マネージャーの提案で動画配信ドッキリを実行し、ファンの混乱がSNSで広がっていく。

騙されたファンの怒りの矛先はマネージャーや事務所ではなく柚莉愛本人に向かってしまい――。


真下みこと(ました・みこと)

1997年埼玉県生まれ。2019年『#柚莉愛とかくれんぼ』で第61回メフィスト賞を受賞し、2020年デビュー。著書に『あさひは失敗しない』がある。またアンソロジー『Day to Day』に掌編小説「40分の1」が収録されている。シンガー・みさきとの「読む音楽」と「聴く小説」を届けるボーダレスデュオ「茜さす日に嘘を隠して」では小説執筆と作詞を担当、活躍の場を広げている。

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