一穂ミチさんが選ぶ「おすすめ小説」5冊!

文字数 1,033文字

小説『スモールワールズ』で話題沸騰の作家、一穂ミチさん。

大阪〈梅田 蔦屋書店〉さんで先日まで開催されていた「花とBL」フェアにて、一穂さんが選ぶ「おすすめの小説5冊」が店頭展開されました。一穂さんの手書きのPOPとともに、選りすぐりの5冊をご紹介します!

(※現在書店店頭でのフェアは終了しております)

『怒り』(吉田修一/著)

「だったら言うよ。『信じてくれてありがとう』これでいいか?」

ある殺人事件をめぐり、めまぐるしく展開される様々な人間模様。そのすべてがひたむきで哀しいのですが、とりわけ「リア充」なゲイ・優馬と、孤独な青年・直人の物語には、振り絞るように祈らずにおれませんでした。「お願い、どうか幸せになって」と。見届けて下さい。

『重力ピエロ』(伊坂幸太郎/著)

「春が二階から落ちてきた」

この書き出しが大好きです。読み終えたらもっと大好きになる。泉水と春、こんな兄弟が、どこかで本当に生きていてくれたらいい。重力を、痛みを、秘密を、曲芸のように越えていく彼らがいてくれたら、何の関係もない自分の人生までが、ほのかに明るんでいくような、そんな希望を抱けるからです。

『照柿』(高村薫/著)

「いつも人の信頼と体温を求めていた達夫に対して、いったい自分はどこまで冷淡だったのか」

真夏の熱でいびつに融け合っていく男と女と、男。絡み、もつれた足が踏み外したその先は、照柿の色に燃える情念の炉。どろどろになりながらも、胸のどこかがすうすう寂しい。高村薫作品だけの読み味です。大阪の土地がたくさん出てくるのも嬉しい!

『ノルウェイの森』(村上春樹/著)

「あの十七歳の五月の夜に、キズキを捉えた死は、そのとき同時に僕を捉えてもいたからだ」

「国民的恋愛小説」と言ってもいい名作ですが、「僕(ワタナベ)」と「直子」と「緑」の関係の根底にある、親友「キズキ」との日々、その死に改めて思いを馳せると、この物語の中に響き続ける喪失の音楽が、いっそう鮮やかに痛切に、聴こえてくる気がするのです。

『ブロークバック・マウンテン』(E・アニー・プルー/著)

「こういうことは他の連中には起きないのか? 起きたときはいったいどうするんだ」

登場人物のイニスが1967年に語ったこの疑問に、2021年の現在も明確な回答はできないでしょう。「あなたたちだけじゃない、そして気持ちを偽らなくていい」と、言い切れないのが悲しい。イニスとジャックの恋が、厳しく、美しく、嘘のない大自然の中にあったことだけが救いです。

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