デザインの舞台裏『スモールワールズ』装幀のあとがき③

文字数 2,271文字

現在書店店頭を騒がせている、一穂ミチさん『スモールワールズ』は、カバーもとっても素敵です。

作品の「顔」ができあがるまでの、創作秘話や四方山話を、担当デザイナー松昭教さん(bookwall)がじっくり語ってくれました。

最後に泣ける、装丁を巡る物語――。

スモールワールズ公式HP⇒https://smallworlds.kodansha.co.jp/

写真:下村しのぶ/立体:北原明日香

松 昭教【まつ・あきのり】(bookwall)

1972年生まれ。ブックデザイナー。株式会社ブックウォール(bookwall)代表。 社名には、自分がデザインして積み重ねてきた〈本の壁〉をさらに越えていく決意を込めた。 2014年に『ぷぷぷのぷ』『おともだちのぷ』(ポプラ社)で絵本作家としてもデビュー。

bookwall:http://bookwall.jp

twitter :@bookwall

【タイトルデザインそして帯】

広告や装丁でもここ1、2年ほど手書き文字をタイトルなどに使うデザインが多く見られるようになりました。手書き文字には柔らかさと素朴さに、自分を投影できる近さがあるのかもしれません。

『スモールワールズ』でもそれをとり入れてみようとしたのですが、新人作家さんということもあり、タイトルはシッカリと可読できた方が良いだろうと考えて、手書きではないが方法で柔らかさを出せないか何度も実験をしました。

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短編の繋がりや世界の集合体、人びとの関わりなど、今までのキーワードから連想できる物として、繋がっていくイメージをタイトル文字で表現しています。

編集さんから「読者へのプレゼント的作品になったら良いかも」という提案もあったので、贈り物をイメージしたリボンの流れも取り入れることにしました。

文字との繋がりは大切にしつつ、一文字ずつの見やすさを作ることで目線が追いやすいようにフォントを作っています。

気がついた方はいると思いますが、その中でも「ワ」が少しだけ縦長でアンバランスな位置にあります。

それはなぜかというと、全て整えすぎると単調になり、リズムが失われ、読みづらくなるということです。今回はセンター位置にあるタイトル文字を大きくすることで違和感とリズムを作り出すようにしています。

リズムについてもう少し説明しますと、

「スモール」「ワールズ」というような区切りがあるタイトルだと、一度「スモール」までをしっかりと目で追ってもらい、次に「ワールズ」を目で追ってもらう。単語ごとに目に入るようにしています。

これは文字の連なりが長くなればなるほど、どこで区切っていいのかわかりにくくなるために、意図的に目を止めてもらう仕掛けをしています。

特にひらがなやカタカナだけのタイトル、長いタイトルにはさまざまな工夫をすることで、可読されやすい状態を意図的に作っていくこともデザインの一部です。

デザインといっても、ただビジュアル化されるだけのものということではありません。

ただ読みやすさやを求めるのではなく、わかりやすさと違和感を共存させることで、多くの人が理解でき、興味をもってもらえます。

こういったこともデザインで伝える面白さの一つです。派手な色使いや、見た目のインパクトだけではなく、多くの人々が手に取れるように理解できる共通項をとり入れることは重要だと感じています。

担当編集者さんのフィードバックを経てラフが段階的に完成に向かう間に、それに合わせて何度か帯テキストを編集者が考え直しブラッシュアップしていきました。

文字の分量が凄く多いものから、極端に少ない、1行で小さくキャッチを入れたものまで、

試行錯誤しながら現在の帯に到達しました。

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大型新人、賞を獲っていそうな佇まい、色々な方々から推されている、売れている雰囲気のような本を作りたい、最初に話していたイメージそのものになったのではないかと思います。

打ち合わせではどの程度、編集さんとお互いの共通認識を持てるかを、疑問質問から擦り合わせます。そこから導き出されたキーワードはとても重要です。

見えないものがカタチになるのはデザイナーになって本当に良かったと思える瞬間です。

それが自分だけでなく、周りの人々がそう感じてくれるならなおさらです。

【最後に】

目に見えるデザインをされたモノには、何かしらの機能が求められています。

スプーンは物を食べるために、椅子は座るために、標識は注意する物事を見やすく認識されやすいように、幼児のおもちゃは危険性が高くないカタチになどなど、

その機能が形になり考えられそれがデザインに変化していきます。

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そして本が自らアピールをして歩き出す瞬間、本そのものが機能していると感じることが時々あります。

本は話すことはできませんが、

・編集者や著者が喜んでくれる。

・営業が売る気になる。

・当初設定していた部数よりも増加する。

・本屋の良い場所に置かれる。

・読者の声が多くなる……。


まるで本自体が自ら宣伝しているような状況を感じた時、機能していると思える瞬間です。

そのような本はとても恵まれています。

そして、多くの本たちは読んでもらうことで、本そのものの最大の機能を果たすことになります。


読んでもらうためにも、書店で多くの本の中に埋もれないように、1冊でも多く本が自らアピールできるような特徴をつけて今後も送り出していければと思います。

「さあ、いってらっしゃい!」と自信を持って背中を押せる状況を作ることが自分の仕事だと考えています。

〈終〉

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