デザインの舞台裏『スモールワールズ』装幀のあとがき②

文字数 2,233文字

現在書店店頭を騒がせている、一穂ミチさん『スモールワールズ』は、カバーもとっても素敵です。

作品の「顔」ができあがるまでの、創作秘話や四方山話を、担当デザイナー松昭教さん(bookwall)がじっくり語ってくれました。

最後に泣ける、装丁を巡る物語――。

スモールワールズ公式HP⇒https://smallworlds.kodansha.co.jp/

写真:下村しのぶ/立体:北原明日香

松 昭教【まつ・あきのり】(bookwall)

1972年生まれ。ブックデザイナー。株式会社ブックウォール(bookwall)代表。 社名には、自分がデザインして積み重ねてきた〈本の壁〉をさらに越えていく決意を込めた。 2014年に『ぷぷぷのぷ』『おともだちのぷ』(ポプラ社)で絵本作家としてもデビュー。

bookwall:http://bookwall.jp

twitter :@bookwall

【カバービジュアル】

自分で感じた小説の内容と情報、そして編集者からのリクエストを踏まえ、キービジュアルやモチーフなどでイメージを伝えるのにわかりやすく表現できるものはないかと、イラスト、現代アート、写真などから探していくことにしました。

いつも、キービジュアルになりそうなものを選択する時は、自分だけでは想像しきれないさまざまな可能性や選択肢を取りこぼすことがないように、気になったものはできるだけ残すようにしています。

今回は『スモールワールズ』の表現に合うようなビジュアルを、すぐには見つけることはできませんでした。

何か自分に見落としがあるような気がして、焦る気持ちを抑えて、編集者さんと何度か電話やメールでやりとりをしてやっと大きなヒントを得ることができました。

『スモールワールズ』は短編で、小さな世界の集合体の繋がりからできた小説です。そこが重要なキーワードだと気がついた瞬間、ある立体作品が頭に浮かびました。


それは数日前に、イラストレーターの北原明日香さんから届いたハガキに使われていた作品で、家のように見える形に切った木に直接絵を描いた可愛らしいものでした。 

「これだ!」


もし今回の作品が別の仕事で使われていたなら、改めて違う作品を探すことになっていたと思います。


【撮影】

カバーに使う作品は決定しましたが、次はそれをどのように見せるかが大きな課題になります。

そこで、今までのキーワードから逆算して、どのように見えるのが正解かを考えていきました。


1)日常 2)小さな世界の集合体 3)光と影/裏と表/対比

4)ミステリアス 5)暗くならない 6)優しさ 


日常的で少しリアリティのある風景と、自分が投影できそうな世界観。

光と影のコントラストで、ミステリアスさの表現ができるような写真を撮影できる人を探していました。

すぐに浮かんだ人が、カメラマンの下村しのぶさんでした。

下村さんは人物撮影も得意なのですが、物体の透明感や重厚さを、自然光を生かして撮影することができてアイデアも豊富な方です。

下村さんのスタジオimeroで撮影しました!

朝がおとずれた食卓に広がる、小さな世界。

自然光の中で撮影されたその世界は、どこかいつも見ている日常の朝の食卓をイメージさせ、光と影のコントラストが、ミステリアスな世界を感じさせてくれるような、広がりのある画像になりました。

小さなテーブルという宇宙に、いろんな惑星で生活する人々の息遣いが聞こえてくるような気さえしてきます。

【デザイン】

ここで少しデザインの話をしたいと思います。

私は20年以上デザインしてきましたが基本は何も変わっていません。

どこかでまたこのような機会があれば詳しく話したいと思いますが、ここでデザインでの考え方の種明かしをしておこうと思います。

          *

デザインには時代の流行りなどがありますが、考える工程はいつも同じです。

『利休百種』の最後には、

「規矩(きく)作法 守りつくして破るとも 離るるとても 本(もと)を忘るな」とあります。

型を生かし、その型を破って、離れるが型も忘れてはいけない。「守破離」と言われるものです。

「守破離」をベースにデザイン作業に当てはめて、この作業を説明しますと、


1_守)まずは、可読性を重視し、情報を整理して読みやすく分かりやすいデザインを基本として作っていきます。

(ここで出来上がったものは単調で面白くないことが多いです。)

2_破)基本を元に、意外性を加えて整理されたものを壊していきます。

(デザインを壊していくと、動きや面白さや楽しさ、時には難解さも出てきます。)

3_離)壊したものを、一度冷静に見直し、基本と照らし合わせ再構成していきます。

(基本にしたがった方が良い点と、単調になり過ぎない遊びや面白さのある点を持ち合わせたデザインが浮かび上がってきます。)


それを何度も繰り返し考えて完成度を上げることで、どこにでもあるようで、どこにもないデザインが出来上がります。

どこにでもあるデザインというものは、まずデザインを知らない人にとっては共通性安心感につながります。

しかしそれだけでは面白みのないものになってしまうため、遊びも加えていくというイメージです。

デザイン以外では、ビジュアルでは直接的には見えない流行、時代の流れ、社会的背景も考慮に入れて表現することがあります。

カタチになる前に、デザイン以外の物事を考えることの方が時間を使うことが多いように思います。


【装幀のあとがき③につづく】

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