書下ろしエッセイ「あなたはゾンビになりたい?生き残りたい?」/石川智健
文字数 1,985文字

脅威から逃れる系の映画を観ていると、必死になって生き残ろうとする姿が描かれることが多い。そこに勇気を貰う反面、「もうそろそろ諦めてもいいんじゃないか」といった感情を抱くことがある。状況が悲惨であれば悲惨なほど、そこまでして〝生〟にしがみつかなくても良いのではないかと思ってしまうのだ。
パニックものの映画の登場人物は、往々にして〝死〟から逃れようとする。ただ、ゾンビ作品は少し風合いが異なる。ゾンビに襲われた結果、待っているのは〝死〟ではなく、〝自分がゾンビになる〟ということなのだ。まさに死んでも死にきれない。
この世界にゾンビが発生した場合、「ゾンビから逃げ続ける」か「ある程度のところで諦めてゾンビになってしまう」かという選択に迫られるだろう(僕はゾンビ映画を観るたびに考えている)。
少しでもゾンビ作品を囓った人ならば分かるだろうが、ゾンビが発生した世界での脅威はゾンビだけではない。人間同士も争い、殺し合い、今までの倫理が崩壊する。新型コロナウイルスの蔓延によって閉鎖された武漢の状況を書いた『武漢日記』に「感染症は、無数の世相を暴き出す(中略)さらに、私たちの社会の病巣も暴き出す」という記述がある。コロナ禍よりも過激であろうゾンビ禍においては、人間の負の部分が噴出し、混沌としたマッドマックスのような世界になっていくはずだ。そんな世界に未練があるかないかは個々人の状況によるだろう。僕もなるべく生き残るよう努力するつもりだが、ゾンビになったほうが楽だと諦観する瞬間が訪れるはずだ。
個人的に、諦めるかどうかの明確な基準が一つある。ゾンビになったとき、意識がなくなるのか、もしくはあり続けるのか。後者の場合は、絶対に耐えられない。人を襲って喰うのを意識するのは非常に厳しいので、僕は生き残るつもりだ。ゾンビになって意識がなくなる場合は、限界ギリギリまで逃げて、噛まれて、死んでから生き返る道を選ぶかもしれない。いや、第三の選択肢もある。噛まれて意識のある間に「ゾンビになる前に俺を撃ってくれ」と言うのだ。銃社会ではないので難しいかもしれないが、言ってみたいセリフではある。
「呪いでもない。ウイルスでもない。ではなぜゾンビ化する?
生命科学者なら誰もが知りながら誰も正面から書かなかったアイデアに感嘆した。
これは『パラサイト・イヴ2.0』でもある」──瀬名秀明氏に絶賛され、さらにKゾンビが好調な韓国からのオファーによって日韓同時刊行を果たした、ゾンビファン注目の書下ろしホラー長編!

石川智健(いしかわ・ともたけ)
1985年神奈川県生まれ。25歳のときに書いた『グレイメン』で2011年に国際的小説アワードの「ゴールデン・エレファント賞」第2回大賞を受賞。’12年に同作品が日米韓で刊行となり、26歳で作家デビューを果たす。『エウレカの確率 経済学捜査員 伏見真守』は、経済学を絡めた斬新な警察小説として人気を博した。また’18年に『60(ロクジユウ) 誤判対策室』がドラマ化され、『20(ニジユウ) 誤判対策室』はそれに続く作品。その他の著書に『小鳥冬馬の心像』『法廷外弁護士・相楽圭 はじまりはモヒートで』『ため息に溺れる』『キリングクラブ』『第三者隠蔽機関』『本と踊れば恋をする』『この色を閉じ込める』『断罪 悪は夏の底に』『いたずらにモテる刑事の捜査報告書』『私はたゆたい、私はしずむ』『闇の余白』など。現在は医療系企業に勤めながら、執筆活動に励む。
(決まり次第、情報追加いたします)
期間10/24〜11/30ジュンク堂書店吉祥寺店 6階にて開催180-0004 東京都武蔵野市吉祥寺本町1-11-5 コピス吉祥寺B館6階~7階営業時間10:00〜21:00

石川智健『ゾンビ3.0』刊行記念
「私のおすすめゾンビ本」フェア開催!
開催期間:10月31日~11月30日まで
開催場所:文信堂書店長岡店レジ前文芸書コーナー
営業時間:10時~19時半
〒940-0061 新潟県長岡市城内町1丁目611-1

石川智健『ゾンビ3.0』刊行記念
石川智健《推し》フェア開催!
開催期間:11月1日~11月30日
開催場所:六本松蔦屋書店
福岡県福岡市中央区六本松4丁目2番1号 六本松421 2F
よみもの売場 棚番4052エンド
営業時間:9:00~22:00
