日韓同時刊行の真相/鶴山文化社 BOOKHOLIC編集部より

文字数 1,634文字

『ゾンビ3.0』韓国版
日本発売前に韓国での刊行が決定し、日韓同時刊行を果たした石川智健さんの話題作『ゾンビ3.0』

『新感染 ファイナル・エクスプレス』で世界をあっと言わせ、「K(韓国)ゾンビ」と呼ばれる映像作品群で世界中を熱狂させている韓国。そのゾンビ先進国で『ゾンビ3.0』が刊行となった真相を、版元・鶴山文化社の方からおききしました!

日韓同時刊行の真相 

鶴山文化社 BOOKHOLIC編集部より


 韓国のゾンビもの、所謂Kゾンビへの作家先生の関心が今回の日韓同時刊行の大きな架け橋となった。今や世界中で愛されているKゾンビだが、韓国でゾンビものが本格的に制作されはじめたのはそれほど昔のことではない。また、ほとんどが映画やドラマをメインにしているため、ゾンビ小説が刊行されるということが何より嬉しかった。ゾンビを含むジャンルもの(スリラー、推理、ホラー、SF)小説を待ち続けていたであろう読者たちに楽しさと快感を与えられる作品と考え、同時刊行を決めた。


 数年前まで西洋の人気ジャンルとばかり思われていたゾンビものだが、最近『新感染 ファイナル・エクスプレス』、Netflixのドラマ『キングダム』、『今、私たちの学校は…』等の映像作品で大きな人気を得て、韓国のコンテンツ産業の主役となっている。主にB級と評価されていたかつてに比べ、現在はブロックバスター級の素材と評価されているが、これは「Kゾンビ」の個性あってこその成功だろう。


 その中で最も特徴的なのはゾンビという素材をあくまで一つの装置として活用している点だ。人々を脅かす絶対的な悪の出現、それに立ち向かうヒューマニズム、そして人間の内面の成長を見せるための道具という範囲でゾンビを登場させ、徹底的に活用している。その他にも社会を反映した物語構造、社会批判的ストーリー、閉鎖的空間設定、実在しているようなキャラクターの構築、そして何より素早く、強力な緊張感を呼び起こすゾンビのスタイルが韓国的なKゾンビを誕生させ、世界中の人気を集めたのだと思う。当分Kゾンビ作品の制作とその人気は続くだろう。


 この『ゾンビ3・0』が他のゾンビ小説とはっきり異なる点は、ゾンビの出現が生み出すスリルとサスペンスを重視するより、人類ゾンビ化の原因と解決策を科学的知識に基づき興味深く書いているところにある。ドラマや映画のように躍動感やスピード感を見せられない、小説という媒体の限界を逆手に取って、著者が物語を一つずつ積み重ねていく過程を辿っていけば、この『ゾンビ3・0』ならではの強さに自ずと気づくことになる。『ゾンビ3・0』はゾンビに対する著者の真の愛情を感じ得る作品であり、ぜひ、Kゾンビに熱狂している韓国及び世界中の読者がこの作品を一緒に楽しんでくれたらと思う。

鶴山文化社(학산문화사、HAKSAN PUBLISHING, CO., LTD.)

韓国の出版社。

日本の作品の翻訳版を中心に、一般書・雑誌のほか、マンガライトノベルを数多く出版している。

石川智健(いしかわ・ともたけ)

1985年神奈川県生まれ。25歳のときに書いた『グレイメン』で2011年に国際的小説アワードの「ゴールデン・エレファント賞」第2回大賞を受賞。’12年に同作品が日米韓で刊行となり、26歳で作家デビューを果たす。『エウレカの確率 経済学捜査員 伏見真守』は、経済学を絡めた斬新な警察小説として人気を博した。また’18年に『60(ロクジユウ) 誤判対策室』がドラマ化され、『20(ニジユウ) 誤判対策室』はそれに続く作品。その他の著書に『小鳥冬馬の心像』『法廷外弁護士・相楽圭 はじまりはモヒートで』『ため息に溺れる』『キリングクラブ』『第三者隠蔽機関』『本と踊れば恋をする』『この色を閉じ込める』『断罪 悪は夏の底に』『いたずらにモテる刑事の捜査報告書』『私はたゆたい、私はしずむ』『闇の余白』など。現在は医療系企業に勤めながら、執筆活動に励む。

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