アルパカブックレビュー『ゾンビ3.0』

文字数 3,147文字

もうすぐハロウィン!

ハロウィンといえばゾンビ!

ゾンビと言えば『ゾンビ3.0』

巷で話題沸騰中の石川智健さん『ゾンビ3.0』を、アルパカさんことブックジャーナリストの内田剛さんがブックレビューしてくださいました!

日本中を恐怖の渦に巻きこんだ小説といえば鈴木光司『リング』と瀬名秀明『パラサイト・イヴ』が双璧といえるだろう。ジャケットを思い出すだけでも背筋が凍る。『リング』は書店店頭で飛ぶように売れて文庫化、映画化もされて「貞子」のビジュアルがさらに脳裏に刻まれ人気に拍車がかかった。ホラー小説のレジェンドである。バイオ・ホラーの傑作『パラサイト・イヴ』もミリオンセラーとなり映像やゲームにもなって恐怖を拡散。ただ鳥肌が立つ恐さだけでなく、研究者の視点から描いた迫真の描写が魅力である。いずれの作品も強烈な引力のあるストーリーもさることながら、一度その戦慄を体験してしまったら間違いなく誰かに伝えたくなる。つまり「感染」していく面白さがあるのだ。


『リング』は1991年、『パラサイト・イヴ』は1995年の発売であるから、旋風を巻き起こした両作品を知らない世代も増えてきたであろう。時代は平成から令和へと移り、ホラー小説も進化をし続けてきたが、そのひとつの到達点といえるのが本書である。前述の瀬名秀明をして「これは『パラサイト・イヴ2.0』である」と言わせしめ、正統派ホラー小説のDNAを受け継いだ一冊であると証明された。目が肥えたホラーマニアを納得させるであろう『ゾンビ3.0』は、読後の不思議なまでの爽快感も特筆ものである。これでもかとゾンビが出現するにもかかわらず、なぜ清々しいのかはぜひ一読して体感してもらいたい。


生きているのか、死んでいるのかさえ分からない。説明のつかない得体の知れないものの象徴でもあるゾンビに真っ向から挑み、斬新な解釈によってひとつの結論を見出したのが本作だ。医療系企業に勤務している著者のアプローチは極めて明晰で、誰をも頷かせる説得力がある。究極のサバイバルの中で絶対に生き延びるのだという執念。これは人間が生まれ持った業(ごう)であり、人類の叡智をかけたゾンビとのせめぎ合いに全身が鷲づかみにされる。そして得られた知識を総動員して異なるものに立ち向かう研究者の性(さが)もまた魂に突き刺さる。目先の恐怖に惑わされることなく、感情よりも研ぎ澄まされた知性で立ち向かう、その強い意志が全編を通してまったく揺るがない。


世界中で発生したゾンビの群れは日本にも押し寄せる。そして重要な防衛拠点でもある東京・戸山にある「予防感染研究所」をも取り囲んでしまう。ジリジリと居場所がなくなる緊迫感に「7日間」というタイムリミットもプラスされて、時間を追うごとにパニック状態が高まっていく。押し寄せるゾンビの脅威に刻々と迫る死の臭い。登場人物たちのキャラクターもまた個性豊かで魅力的だが、臨場感のある描写がスリル満点で読者自身もゾンビの気配を眼前に感じるだろう。


走るゾンビに歩くゾンビ。食べるゾンビに噛むゾンビ。ゾンビ化する時間は10秒から2分。個体の違いにも意味がある。全身の炎症、皮膚の乾燥といった身体的特徴の分析はまるで入院患者のカルテのよう。検体からの知見やSNSで世界中から情報を集めて対処法を考察する。読みながらゾンビに遭遇したらどうすればいいのか考えを巡らせるに違いない。「人類VSゾンビ」、命がけの闘いのすべてと生き残るための方法が克明に記されている。もしかしたら本書は実用書としても有用なのかもしれない。ともあれ恐怖心に勝る闘争心が凄い。やはり人間には底知れぬパワーがあるのだ。


人間とゾンビの対決の構図がなぜこれほどまでに切実に感じるかといえば、やはりコロナとの闘いが鮮明に心に刻まれているからだろう。原因不明の病気の蔓延、感染拡大、パンデミック、緊急事態宣言、自衛隊出動といった、未知なる危機に対する時系列の流れが現実ともリンクする。武力での鎮圧かそれとも科学での解決か。こうした現在進行形の異常事態が『ゾンビ3.0』に圧倒的なリアリティを加味している。小説いえども作り物ではない。現在の僕らの生活と地続きであり、時代から生み出された「本物」の物語世界なのである。


読みどころに満ちた一冊であるが、とりわけゾンビ化の原因を探る展開に大いに引きつけられた。「ゾンビ保険」を売りつける保険会社の陰謀。薬を撒き散らす製薬会社の企みか。宇宙からの放射線説もある。それとも有毒ガスのような化学兵器の使用か。はたまた特効薬の存在しない未知なる病なのだろうか。コロナの時代においてはウイルス、細菌説もまた現実味を帯びてくる。さまざまな憶測はそのまま時代を映す鏡のようであり興味深い。


『ゾンビ3.0』は「人はなぜゾンビに魅かれるのか?」という問いにも答えを出してくれる。作中には登場人物たちの掛け合いの中で映像やゲーム、小説などゾンビ名作のタイトルも続々登場。ゾンビに関する雑学知識も散りばめながら、ゾンビ理論の進化までを加えた決定版といっても過言ではないだろう。ゾンビ文学はここに極まり。そして新たなスタンダードとなって、来るべき未来へとつながっていくに違いない。ゾンビは滅びようが本書の価値は永遠だ。『ゾンビ4.0』の登場も心待ちにしよう。


「呪いでもない。ウイルスでもない。ではなぜゾンビ化する? 

生命科学者なら誰もが知りながら誰も正面から書かなかったアイデアに感嘆した。
これは『パラサイト・イヴ2.0』でもある」
──瀬名秀明氏に絶賛され、さらにKゾンビが好調な韓国からのオファーによって日韓同時刊行を果たした、ゾンビファン注目の書下ろしホラー長編!

石川智健(いしかわ・ともたけ)

1985年神奈川県生まれ。25歳のときに書いた『グレイメン』で2011年に国際的小説アワードの「ゴールデン・エレファント賞」第2回大賞を受賞。’12年に同作品が日米韓で刊行となり、26歳で作家デビューを果たす。『エウレカの確率 経済学捜査員 伏見真守』は、経済学を絡めた斬新な警察小説として人気を博した。また’18年に『60(ロクジユウ) 誤判対策室』がドラマ化され、『20(ニジユウ) 誤判対策室』はそれに続く作品。その他の著書に『小鳥冬馬の心像』『法廷外弁護士・相楽圭 はじまりはモヒートで』『ため息に溺れる』『キリングクラブ』『第三者隠蔽機関』『本と踊れば恋をする』『この色を閉じ込める』『断罪 悪は夏の底に』『いたずらにモテる刑事の捜査報告書』『私はたゆたい、私はしずむ』『闇の余白』など。現在は医療系企業に勤めながら、執筆活動に励む。

『ゾンビ3.0』刊行を記念して、全国で続々とゾンビ本フェアが開催されます!

(決まり次第、情報追加いたします)

石川智健「ゾンビ3.0」刊行記念!

ゾンビの嗜み選書フェア開催決定!


期間10/24〜11/30

ジュンク堂書店吉祥寺店 6階にて開催

180-0004 東京都武蔵野市吉祥寺本町1-11-5 コピス吉祥寺B館6階~7階

営業時間10:00〜21:00

石川智健『ゾンビ3.0』刊行記念

「私のおすすめゾンビ本」フェア開催!


開催期間:10月31日~11月30日まで

開催場所:文信堂書店長岡店レジ前文芸書コーナー

営業時間:10時~19時半

〒940-0061 新潟県長岡市城内町1丁目611-1

石川智健『ゾンビ3.0』刊行記念

石川智健《推し》フェア開催!


開催期間:11月1日~11月30日

開催場所:​六本松蔦屋書店 

​     ​福岡県福岡市中央区六本松4丁目2番1号 六本松421 2F​

​     ​よみもの売場 棚番4052エンド

営業時間:9:00~22:00

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