『パラサイト・イヴ2.0』とも言える作品/瀬名秀明

文字数 1,886文字

あのバイオ・ホラーの傑作『パラサイト・イヴ』の著者、瀬名秀明氏が、『ゾンビ3.0』の書評を書いてくださいました! 
『パラサイト・イヴ2.0』とも言える作品/瀬名秀明

 世のなかには「よくこんなことを考えたもんだ」と惚れぼれするようなアイデアが存在する。巷に溢れるゾンビやサメや幽霊屋敷の映画はそうしたアイデアの競技場だが、本作『ゾンビ3・0』の鮮やかさには感嘆した。


 この物語が俄然面白くなるのは「三日目」からだ。世界で同時多発的にゾンビが出現し、人々を襲う。もちろんスマートフォン隆盛の現代であるから各国でさまざまな人がさまざまなことをやって中継している。それらをザッピングするように紹介してゆく「三日目」の描写は、すなわち今日におけるゾンビ映画の〝お約束〟の総括なのだ。定石に則って研究所に隔離された主人公たちは、この先当然ながら「なぜわずか十秒で、嚙まれた人間はゾンビ化するのか」という謎を解かねばならない。さあここからオリジナル性を発揮するぞという作者の宣言でもある。舞台のモデルは明らかに日本の国立感染症研究所。BSL3の施設を持つ予防感染研究所の研究者がゾンビ化現象を科学的に、しかも一週間で解明できるか? 生命科学を囓った読者なら誰もがこの状況設定には燃えるだろう。読みながら「自分ならどうする」と空想をフル回転させるに違いない。そして本作では嬉しいことに、余計な馬鹿げた寄り道はいっさい入らない。さらに彼らの辿り着いた解答は、自然科学としてかなりスジのよいものだ!


 物語の最後に登場する薬物は実在のものである。後半から頻繁に登場する用語の数々は、健康サプリの説明で目にしたことのある人も多いだろう。つまり謎を解く鍵は私が二十年以上前に書いた『パラサイト・イヴ』と同じ、私たちの体内で産生される〝エネルギー〟に他ならない。生命の本質部分をしっかり射貫いているからこそ、本作は呪いや感染症に次ぐ『ゾンビ3・0』を名乗る資格があるわけだ。


 よって本作は『パラサイト・イヴ2・0』でもあり、日本のホラーをアップデートさせるぞと意気込んで毎日自宅のワープロに向かっていたあのころを思い出させてくれた。同時期にゲームが出た『バイオハザード』はいまも続編がつくられているが、『パラサイト・イヴ』は後継作が生まれることはなかった。しかし新型コロナウイルス感染症(COVID‐19)が広がった二〇二〇年夏、イギリスのバンド、ブリング・ミー・ザ・ホライズンは「This is a war」のフレーズとともに楽曲「Parasite Eve」を大ヒットさせ、いま私たちの手元には本書がある。私たちはずっと何と戦ってきたのか。生命でありながら理性主体である人間という私たち自身、そしてその社会との戦いであった。本作はそのことをよく伝えてくれる。だからこそ──。


 読み終えて、なんだか不思議と嬉しいのだ。

瀬名秀明(せな・ひであき)

1968年静岡県生まれ。東北大学大学院薬学研究科(博士課程)修了。薬学博士。’95年、『パラサイト・イヴ』で第2回日本ホラー小説大賞を受賞し、デビュー。’98年、『BRAIN VALLEY』で第19回日本SF大賞を受賞。SF、ホラー、ミステリーなど幅広いジャンルの小説を発表する一方で、科学書、文芸評論の執筆活動、共著・監修にも精力的に取り組んでいる。

「呪いでもない。ウイルスでもない。ではなぜゾンビ化する? 

生命科学者なら誰もが知りながら誰も正面から書かなかったアイデアに感嘆した。
これは『パラサイト・イヴ2.0』でもある」
──瀬名秀明氏に絶賛され、さらにKゾンビが好調な韓国からのオファーによって日韓同時刊行を果たした、ゾンビファン注目の書下ろしホラー長編!

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​     ​よみもの売場 棚番4052エンド

営業時間:9:00~22:00

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