書店員がガチ推薦! 今月の平台 『法廷遊戯』/五十嵐律人

文字数 929文字

「平台」とは、書店の売り場で特に目立つ売り場のこと。


このコーナーではそこで「売りたい」イチオシ本を1冊PickUp!!


書店業界で働く書店員によるガチの書評をお届けします。


今月の1冊は、五十嵐律人 『法廷遊戯』!


 文学賞には様々な賞がある。芥川賞、直木賞、本屋大賞といった知名度の高い賞から文藝賞やすばる文学賞、小説現代長編新人賞といった新人賞など、名前を挙げたらきりがない。書店員でも覚えられないくらい存在し、本を売る側としては正直困ってしまう。ただ読者にとって、賞の存在は面白い本に出会える! という目印になるので、自分好みの賞が見つけられるとずっと楽しむことができる。


 そんなわたしの好きな賞はメフィスト賞である。


 コンセプトは「面白ければ何でもあり」。書店員になる前から大好きな賞で、これまで輩出した作家は森博嗣にはじまり、舞城王太郎、西尾維新、辻村深月などメフィスト賞を追いかけていなければ出会わなかった作家もたくさんいる。昨年刊行された第59回受賞作『線は、僕を描く』(砥上裕將・著)は本屋大賞3位にも輝いた、すばらしい青春小説だった。


 そして今年刊行されたうちの一冊が、第62回受賞作である五十嵐律人さんの『法廷遊戯』である。メフィスト賞受賞作というだけで「どれほど面白いのか」とハードルが上がり、更にジャンルは難しいと思われるリーガルミステリー。だが一言でいえば、読む前のいくつものハードルを蹴散らすほど面白かったのだ。


 リーガルミステリーは、難解な法律用語が飛び交い、堅苦しいイメージもあってこれまでほとんど手を出さなかった。『法廷遊戯』は「無辜ゲーム」という模擬法廷から始まるため、ゲーム感覚で読めて、とても理解しやすく、その上説明くさくない。天秤にかけられた正義と悪、罪と罰、有罪と無罪、過去と現在と天才ロースクール生・結城馨が混ざり合って法廷劇だけには収まらない人間ドラマ、青春ミステリーである。この秋、とにかく読んでほしい。


 現役の司法修習生でもあるという五十嵐律人さんがどんな作家になっていくのか楽しみで仕方がない。読み終えたとき、巻末に次作の予告が載っていた。既に待ち遠しい。

Written by

川俣めぐみ

 (紀伊國屋書店横浜店)

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