書店員がガチ推薦! 今月の平台 『虜囚の犬』/櫛木理宇

文字数 911文字

「平台」とは、書店の売り場で特に目立つ売り場のこと。


このコーナーではそこで「売りたい」イチオシ本を1冊PickUp!!


書店業界で働く書店員によるガチの書評をお届けします。


今月の1冊は、櫛木理宇 『虜囚の犬』!

 世の中には、大きく分けて二種類の本がある。


 人に薦めやすい本と、人に薦めにくい本だ。そう思ってしまうのは、私が書店員なんて因果な商売をしていて、「オススメの本」という人によってストライクゾーンが変わる宣伝文句に、日々頭を悩ませているからかも知れない。


 売り場で「オススメの本は?」と問われ、この『虜囚の犬』を紹介する私を想像してみる。お客様は訝し気にその本を手に取って、「何だか怖そうな表紙ね……どんなお話なの?」と聞くだろうか。「えぇお客様、この小説は、とある男が死体となって発見されるところから始まります。その男の住居を訪ねた刑事は、その屋敷の離れで監禁されている女性を発見するんです。骨が浮き出るほどやせ細り、犬の首輪で鎖につながれている女性には、繰り返し性的暴行を受けた痕跡がありました。犬用と思しきエサ皿で彼女に与えられていたのは、先に亡くなった他の女性をミンチ状にしたものだと後に発覚するんですが……」ドン引きである。


 きっとお客様は、眉間にシワをがっつり寄せてそそくさとその場を立ち去り、二度と私にオススメを尋ねて来やしないだろう。『虜囚の犬』は、間違いなく人に薦めにくい。しかし、だからと言って回れ右してしまうには、あまりにも惜しい傑作なのだ。


 グロテスクなヴェールが覆い隠す、複雑に入り組んだ人間ドラマ。なぜ女性を犬のように監禁していたのか、監禁していたのは誰なのか、死体で発見された男の犯行なのか? 一つ明らかになれば、また一つ謎が浮かび上がり、明らかになったはずの真実さえ闇に沈む。あぁ先が気になって、頁を捲る手が止まらない……!


 身体に悪い食べ物ほど美味しいという。『虜囚の犬』を表現するに、これ以上の言葉が見つからない。この小説は、櫛木理宇という一流の料理人が、その腕を惜しみなく振るって丁寧に緻密に作り上げた、最高のジャンクフードだ。

Written by

本間悠

 (明林堂書店南佐賀店)

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