書店員がガチ推薦! 今月の平台 『最高の任務』/乗代雄介
文字数 960文字
ガチの書評で、オススメします。
今月の1冊は、乗代雄介『最高の任務』!

ストーリーが余すところなく身体全体にしみわたる。『最高の任務』は読むことの愉しみを存分に味わえる素晴らしい作品だ。
「十七八より」で群像新人文学賞を受賞してから五年。才能とセンスに恵まれた俊英の最新作は期待以上の出来栄えである。
本書は「生き方の問題」と表題作「最高の任務」の二編から構成されているがこのカップリングがまずなによりも巧妙なのだ。
前者は書き手と相手をクリアにつなぐ〝手紙〞が、後者は疾走する感情を瞬時に焼き付ける〝日記〞がモチーフとなっており、まさに一冊で二度おいしく読者としては嬉しい限りだ。
「生き方の問題」は幼少時代から〝僕〞の憧れの対象である二歳年上の従姉への手紙によって物語が突き進む。とりわけ二人きりで山登りするシーンは臨場感も抜群。スリリングな二つの若い魂の交錯と、互いの思惑のぶつかり合いが吐息まで伝わってくるようで凄まじい。ラストに用意されたサプライズも絶妙。圧倒的な生命力に唸ってしまった。
ただならぬ余韻が残りながら二編目の「最高の任務」に突入。ここでは亡き叔母の存在が核となり、確かな死から哀しみ、切なさ、虚しさといったネガティブな空気が支配する。しかし物語は輪廻する。そこから家族の再生がはじまり、人間の根底に流れる温かな情がじわりと湧き出して思わず涙。本当にうまい!
どちらも語り手の感情の吐露がほんとうに生々しく、気恥ずかしささえも感じられるような青春時代ならではの妄想と懊悩が爆発。生身の人間の細やかな心象風景を鮮やかに描き切っており、とてつもない引力がある。読後すべてを持っていかれたような感覚に陥った。これほど引き寄せられる文学作品も稀だろう。
〝手紙〞と〝日記〞二つのアプローチによって対象者を明確にさせ、むき出しの自己を炙り出すばかりかぼんやりとした過去を洗い出す作業から紛れもない現在を突き付ける。
やはり乗代雄介という作家はただ者ではないし、『最高の任務』はただならない作品だ。

Written by
内田剛(出張書店員)
