今月の平台/ 『あいにくあんたのためじゃない』
文字数 2,345文字
書店の一等地といっても過言ではない「平台」は、今最も注目のオススメ本&新刊本が集まる読書好き要チェックの胸アツスポット!
毎月刊行される多くの文芸書の中から、現役書店員が月替わりで「これは平台で仕掛けたい!」と思うオススメ書目1冊をPick Up!&読みどころをご紹介します!
紀伊國屋書店横浜店 川俣めぐみさんの仕掛けたい一冊は――
柚木麻子さんで好きな作品は『BUTTER』『ナイルパーチの女子会』『オール・ノット』と、女性を主人公とした重厚な長編作品が多かった。最新作の『あいにくあんたのためじゃない』は痛快で、だけど自分にもその刺した刃が返ってくるような6編の短編集である。
ラーメン評論家にネットで晒された人たちが何年もかけて復讐をはたす「めんや 評論家お断り」、ベイクショップを開きたい女の子にオーブンをプレゼントしたのに、のらりくらりと逃げられたりする「BAKESHOP MIREYʼS」、お客さんを見かけたことのない謎で高級なものを売っているお店の話「商店街マダムショップは何故潰れないのか?」など、一編一編のパンチが効いていて、驚嘆してしまうほどだ。「あいにくあんたのためじゃない」という表題作は収録されていないものの、一括りにするとまさに相応しく、思わず頷いてしまう。
これまで読んできた柚木さんの作品は長編作品が多かっただけに、本作から柚木さんの描く短編の面白さに気づけ、その認識をアップデートできた気がする。時代の流れを汲み取ったり、「今」の時代に必要とされる言葉を提示してくれる。柚木さんはそんな作家だとおもう。
特に今作でわたしのお気に入りは「スター誕生」。元アイドルで落ち目の昼帯キャスターが、ネット動画でバズった一般人「MCワンオペ」を使って返り咲こうと企む。滑稽なキャスターと、必死で真摯だからこその言葉の重みがあるMCワンオペの対比が面白い。自分も滑稽なキャスターのようになっていないか考えてしまった。
そして最後に忘れてはならないのが、なんといっても食べ物の描写である。食べ物を書かせたら柚木麻子さんの右にでるものはいない。ラーメンもうどんも寒天ゼリーもヤンニョムチキンもプリンアラモードも、どれも食べたくてしかたがない。デビュー作から最新刊までの作品に出てくる美味しいものを取り揃えてお店を出してほしい。絶対に通うし、大繁盛まちがいなし!!
丸善名古屋本店 竹腰香里さんの一冊
村雲菜月 講談社
キャラクターオタクの主人公。その収集癖に協力するクレーンゲームオタクの男性、主人公の担当の髪オタクの美容師。自分の嗜好のため、互いのプライベートに干渉することもなく、程よい関係が続いていたようだが……。物への執着、つい集めちゃう、思い当たる節がありすぎる。主人公に対して他人とは思えないだけに、衝撃のラストにひたすら恐怖でした。
高坂書店 井上哲也さんの一冊
南海遊 星海社
『館』×『密室』×『タイムループ』の三重奏本格ミステリ。「トリプル」って、何だそれ? 読み進めたら合点がいった。これはスゴイ! トリプルどころか、クアドラプル、クインタプルかも知れない……。ネタバレするとまずいので、多くは語れないが、死に戻りって何じゃそれ? いやはや空前絶後の特殊設定本格ミステリである。
出張書店員 内田剛さんの一冊
砂原浩太朗 新潮社
江戸市井の張りつめた空気もそのままに、抗えない運命の日々を生きる者たちの吐息を見事に再現。川の両岸を繫ぐ愛おしい縁あれば、残酷に流される人生もあり。光と闇の交錯から溢れだす奥深い情が全身を震わせる。
佐賀之書店 本間悠さんの一冊
青柳碧人 実業之日本社
定年間近に怪奇現象がらみの事件を取り扱う部署に異動となった刑事・只倉。私怨を込めてオカルトを台無しにしてゆく謎解きが、読んでいてめちゃくちゃ気持ち良い! シリーズ化を切に希望します!
丸善丸の内本店 高頭佐和子さんの一冊
角田光代 新潮社
私たちはなぜ、何かを信じたり信じないと決めたりするのだろう。誰かの幸福を願っていたはずなのに、違う結果になってしまうのだろう。読みながら、記憶が溢れてきた。明日の見えない今を生きる人に、読んでほしい。
ときわ書房本店 宇田川拓也さんの一冊
間宮改衣 早川書房
本年必読。この新しい波に乗り遅れてはならない。ひらがなだらけの出だしに面食らうが、世界の終わりが迫るなか、淡々と語られる家族史。その歪にして純粋な想い、身近にして遠大なテーマ性、そしてタイトルの真意に心を射抜かれた。
紀伊國屋書店梅田本店 小泉真規子さんの一冊
秋吉理香子 KADOKAWA
『暗黒女子』で美しい少女たちの無邪気な悪意を描いた著者が、今度は美しい女性たちの狡猾な悪意を、人間不信になるほどに見事に描いている。
丸善博多店 徳永圭子さんの一冊
相場英雄 角川春樹事務所
開票率ほぼ0%で当確が出る。その根拠を知りたくて読み始めたら気分の悪くなる話が続いた。急遽選挙班に組み込まれた女性記者の目線とどぶ板選挙を繰り広げる陣営の論理が交互に描かれる。加害と被害は入り乱れているが、無念の死を遂げた者の声と真実を眠らせてはならないと意を決する登場人物の姿を見届けるなかで、人間の弱さにも触れる。やるせない。