プロの小説家がおすすめする“本当に怖い”ホラー小説7選/百壁ネロ

文字数 4,473文字

夏といえば怪談! 背筋が凍るようなホラー小説を読みたいですね。

tree編集部は、小説家の百壁ネロ氏に“本当に怖い”ホラー小説を7本選んでご紹介していただきました!

【その1】大人が読んでもしっかり怖い、ベスト・オブ・学校の怪談本
「学校の怪談 百円のビデオ」

(常光徹/講談社)

▼あらすじ

「百物語」と「七不思議」――不思議と怪異の傑作怪談集。旅先で買った1本100円のビデオは「鋸」というタイトルだった……(「百円のビデオ」)。ひとり息子の誕生日、ケーキを買って家路を急ぐ男は分かれ道の前で迷っていた。近い方の道には、悲しく辛い思い出があり、できれば通りたくないからだった……(「子取沼(ことろぬま)」)。よりぬきの「こわい話」57編を収録。

僕が小学生だった頃、学校の怪談が大ブームで、ポプラ社版と講談社版が学校の怪談本の二大巨頭でした。どっちも買ってましたが、大人になっても怖いのはこの講談社版に軍配が上がるかと。


童話を語るようなですます口調が妙に突き放した風に聞こえて不気味で、「~と言いました。」「~が聞こえました。」などで終わって話がバツッとぶった切られるものも多く、「いやそれでどうなったの???」という後味の悪さが延々と残ります。表題作の「百円のビデオ」は、読んだことのない人についつい語り聞かせちゃうぐらい大好きなお話です。この記事を書きながら、話の最初からオチまで全部書いちゃいたいぐらいです。


ちなみにもう一冊「学校の怪談 K峠のうわさ」という本も出ているのでこれもあわせて読んで、改めて学校の怪談にハマっちゃって頂きたいです。

【その2】我々人類が知る小説の常識を遥かに超えた、異様なる青春学園ホラー

「保健室登校」

(矢部嵩/KADOKAWA)

▼あらすじ

転入生の彼女は疎外感を味わっていた。級友は間近に迫った旅行の話でもちきりなのだ。だが、待ちに待った出発の日、転入生が見た恐るべき光景とは? 普通の学校生活が恐るべき異世界へと変わる瞬間を描く。

矢部嵩氏の小説はもう全部が全部好きでして、私事で恐縮ですが、確か講談社BOX-AiR新人賞の応募要項にあった「好きな小説は?」みたいな質問に僕が書いたのがこの「保健室登校」でした。


異常に口語的に書かれた会話文、急に一行でサクッと人が死んだり教室に平気でトラバサミが出てきたりと凝り固まった読書常識を軽々飛び越えてくる物語展開、「テレコムさん」「昼べさん」「国際展示場さん」といった唯一無二にもほどがある登場人物たちの名前など、人類が知る小説を遥かに超えたものを創り出す矢部嵩氏。本作は、そんな氏の濃い狂気がめちゃくちゃちょうどいいポップさで割られ、スラスラ楽しく読める作品となっています。


再度私事で恐縮ですが、この本が出た当時、長年同棲していた彼女と別れまして、この本が面白すぎたことによって失恋の痛手を薄れさせて頂き、その節は大変お世話になりました。

【その3】殺人&セックスがスナック菓子感覚の世界で繰り広げられる、圧倒的インモラル冒険譚
「殺人鬼教室 BAD」

(倉阪鬼一郎/TOブックス)

▼あらすじ

「昔の刑罰の実験をします」今日の授業はトオルがモルモットになる電気椅子での処刑実験だ。電流が流された裸体は痙攣し、ほどなく死の硬直が始まる。生徒たちはいっせいに拍手を始めた。とある都市にあるディア学園とソロブ大学では「死ぬことは最高の快楽である」と教えられ、誰もが乱交や拷問、殺戮に明け暮れている。そんな中「世界の秘密」を知りたいと冒険に出た者はいったい何を 目撃したのか――。謎と邪悪に溢れたインモラル・ホラー。

殺人とセックスが至ってカジュアルにはびこる世界という設定がとにかく好みで、夢中になって一気に読んだ作品です。「××××(※性的な道具)」「■■■(※性的な表現)」みたいな単語があまりにも普通にサラッと出てくるので、同音異義語かなんかかと一瞬思うんですが全然そのまんまの意味なので「おお……」と読みながら何度も目が冴えてしまいます。


本当に当たり前のようにそのへんで人が血みどろになったり「■■■(※性的な表現)」が犯されたり精液が放たれたりして登場人物たちはさっぱり気にも留めないので、読みながら「読者である自分だけはせめて常識人でいなければ」という謎の使命感すら湧いてきます。


とは言えただの悪趣味系ホラー小説なのかというと断じてそうではなく、この世界に隠された真実を探るというミステリー&アドベンチャー&SF要素があり、単なるホラーという枠に収まらない、ありとあらゆる意味でドキドキできる作品となっています。

【その4】最後の一行が、死ぬまで一生頭にこびりついて離れなくなる……
「居心地の悪い部屋」より「ささやき」

(岸本佐知子編訳/河出書房)

▼あらすじ

翻訳家の岸本佐知子が、「二度と元の世界には帰れないような気がする」短篇を精選。エヴンソン、カヴァンのほか、オーツ、カルファス、ヴクサヴィッチなど、奇妙で不条理で心に残る十二篇。

“読みおわったあと見知らぬ場所に放り出されて途方に暮れるような、なんだか落ち着かない、居心地の悪い気分にさせられるような、そんな小説”ばかりが12篇集まったアンソロジー、「居心地の悪い部屋」。


その中の一篇、レイ・ヴクサヴィッチ氏の「ささやき」は、ガールフレンドにイビキがひどいと言われた主人公が「俺イビキなんてかかないし!」とムキになり、己の潔白を証明するために、ある晩カセットテープで録音しながら寝てみたところ、翌日テープを聞くとなんとむにゃむにゃ……というあらすじの物語。


ありふれた日常から超高速で不安な世界に突き落とされる感覚は、読みながら主人公と一緒に心臓がバクバクすること請け合いです。ぜひ、最後の一行に震えてください。ちなみに他の11篇も最高になんとも言えないモヤモヤッとした気持ちになれますよ。


※“”部は編訳者あとがきより引用

【その5】結局、人間が最恐で最凶ってことがわかる本
「東京伝説 自選コレクション 溶解する街の怖い話」

(平山夢明/竹書房)

▼あらすじ

2003年『うごめく街の怖い話』以来11冊の巻を重ねてきた「東京伝説」シリーズ。心霊ではなく人間の闇が引き起こす恐怖実話の金字塔は、現在において、世を騒然とさせる数々の凶悪事件の預言書とまで言われている。そんな総数400を超える話より、著者が選んだ最凶な話を自身の解説とともに編纂。「都会の遭難」や「素振り」など<伝説>きっての名作がそろう究極の一冊だ!

平山夢明氏の恐怖実話シリーズのベスト盤です。


一人暮らしの部屋にヤバい人が入ってきた話、決して表に出ることのないヤバい仕事の話、人畜無害に見えて誰よりもヤバいおじさんおばさんの話など、身の回りにいる人々が起こした実際のヤバい話がこれでもかと収録されており、新聞やニュースで語られる事件は実は表に出ているだけマシなのかも……という感覚が読後に芽生えてしまいます。


あと、これを読んだら絶対に鍵のかけ忘れを金輪際やらなくなります。ほんとに、こんなに防犯意識が高まるホラー作品ってこの世にないんじゃないでしょうか。


人って一番怖いですよやっぱり。

【その6】結局、心霊が最恐で最強ってことがわかる本
「鬼談百景」

(小野不由美/KADOKAWA)

▼あらすじ

学校に建つ男女の生徒を象った銅像。その切り落とされた指先が指し示す先は……(「未来へ」)。真夜中の旧校舎の階段は“増える”。子どもたちはそれを確かめるために集合し……(「増える階段」)。まだあどけない娘は時折食い入るように、何もない宙を見つめ、にっこり笑って「ぶらんこ」と指差す(「お気に入り」)。読者の体験談をもとに書かれた怪談九十九話。ときにおぞましく、ときに哀しく、そして優しいエピソードの数々。四季の移ろいと日本的情緒を描いた著者初の百物語怪談本。

なんとなく百物語はお寺のお堂なりに集まってロウソクを囲んで粛々と行うようなイメージがありますが、本書はまさに、ウェットすぎずドライすぎないほどよく淡々とした語り口と、一話あたり2、3ページ程度というほどよい短さによって、リアルな百物語をライブで聴かされているような感覚になれます。


こうしておすすめで挙げといてなんですが、正直、怖くて全話は読めていません。私事ですが最近、僕は昼夜が逆転した生活を送っていまして、夜が主な活動時間帯なんですが、一人暮らしの深夜にこういうのを読むのはキツイですよ本当に。先の「東京伝説」に登場した狂気の隣人たちも怖いですが、心霊って防犯が効かないですからね……。


ちなみに本作は映画化もされており、あわせてお楽しみ頂くとより良いかと。僕のお気に入りは「赤い女」と「続きをしよう」です。観たら忘れられなくなると思います、永遠に。

【その7】恐怖演劇の聖地たるグラン・ギニョル劇場を疑似体験できる血みどろ短篇集
「ロルドの恐怖劇場」

(アンドレ・ド・ロルド 平岡敦編訳/筑摩書房)

▼あらすじ

二十世紀初めのパリで、現在のホラーやスリラーの源流となったグラン・ギニョル劇が大ブームとなった。その代表的作家ロルドの短篇小説傑作選。

「東京グランギニョル」や「月蝕グランギニョル」など、サブカル好きなら必修レベルで聞いて知っているであろうサブカル頻出ワード「グランギニョル」。その言葉の本家本元であるパリの「グラン・ギニョル劇場」の座付き作家であるアンドレ・ド・ロルド氏の小説作品がいっぱい読めてしまうという贅沢な短篇集です。


「グラン・ギニョル劇場」は血まみれショック演劇を重点的に発信するというあまりに尖りきった公演スケジュールを敢行し、「観客のうち何人が失神したか」を公演成功or不成功の尺度のひとつにしていたという凄まじい劇場。そんなところの座付き作家が書く小説が身の毛がよだたないワケがありません。なにせロルドさん、異名が「恐怖のプリンス」ですからね!


劇場は1962年に閉館していますが、収録作を読むことでどんな芝居が上演されていたか想像を巡らせることができるという意味でも、本書は貴重な作品集だと思います。


ちなみに僕のおすすめは「究極の責め苦」です。タイトルからして嫌な予感しかしないと思いますが、皆さん、その予感、当たりますよ。

ホラー好き作家・百壁ネロ氏による、“本当に怖い”ホラー小説7選でした。ぜひお手にとって読んでみてくださいね!
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百壁ネロ

2013年、『ごあけん アンレイテッド・エディション』で講談社BOX-AiR新人賞を受賞しデビュー。2017年、『母の嘘』でエブリスタサイコホラーコンテスト佳作入賞。近著に『母の嘘』(アンソロジー『悪意怪談』所収、竹書房)。2020年よりフリーのライターとしてゲーム系メディア等でも活動中。

Twitter:https://www.twitter.com/KINGakiko

about.me:https://about.me/nero100kabe/

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