【おすすめ】第42回吉川英治文学新人賞ノミネート6作、担当編集の推しコメント!
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前回の記事では注目の候補作をtree編集部が見所をご紹介しました。そして今回は、各作品の担当編集者から愛あふれる「推しコメント」をいただきました…!
◆ミステリーの圧倒的存在感!最後の1行まで気を抜くな。あなたの感情は必ず裏切られる。
芦沢央『汚れた手をそこで拭かない』(文藝春秋)
普通のひとしか登場しないミステリでありながら、刊行されるや否や「怖すぎる」の声が相次いだ一冊。一篇ごとに違う角度から心の隙間をこじ開けられ、読了するころには「ここまでやるか」と打ちのめされます。本作の魅力は、圧倒的な描写力のキレ。特に身体感覚の表現は絶品で、このリアルさは一つの〈体験〉とも言える気がします。たしかに不穏なものが近づいてくる生々しい予感を、ぜひ全身で味わっていただければ嬉しいです。
◆王道的かつ変則的。未知数な青春小説には、輝かしい未来と誠実な過去が詰まってる。
加藤シゲアキ『オルタネート』(新潮社)
新潮社:担当編集
◆やっとこの気持ちを消化してくれる小説に出会えた。「家族」は魔法の言葉なんかじゃない。
武田綾乃『愛されなくても別に』(講談社)
講談社:担当編集
「家族」や「愛」って、物語の中ではポジティブであるべきものと謳われることが多いように思います。それ自体は悪いことではなく、むしろ良いことだと思いますが、中にはその「結論」では「救われない」と感じる人もいるんじゃないでしょうか。この物語はそんな人のためにある――私が心を掴まれた一番の理由です。人との繋がりに苦しむ主人公たちが、もがき傷つきながら進んだ先に何があるのか。ぜひ、新しい「結論」を見つけて下さい。
◆あったかもしれない思い出も、なかったはずの出会いも。「今」だからこそ。予想外の感動が待ってる。
辻堂ゆめ『十の輪をくぐる』(小学館)
小学館:担当編集
ゲラを読みながら何度も嗚咽した、心からお勧めしたい壮大な大河小説。初読の際、中年男がたどり着いた「真実」ですべてが1本の線に繋がる感動に、思わず「あっぱれ!」と声が出てしまいました。1964年と2020年、2つの五輪を貫く3世代の親子を描いた感動作。読み始めた瞬間から、各時代がリアルに立ちのぼります。仔細な背景描写や各地の正確な方言使いは著者の努力の賜物。没頭して読み進めた先に、予想外の展開が待っています…!
◆「普通」にとらわれすぎないで。この小説は私たちの「好き」を肯定してくれる。
寺地はるな『水を縫う』(集英社)
https://books.shueisha.co.jp/items/contents.html?isbn=978-4-08-771712-9
集英社:担当編集
男らしく/女らしく/家族は、人生はこうあるべき……。私たちの頭に刷り込まれた、いくつもの見えない「普通」や「常識」が、読み進めるうち、ぽろぽろと剥がれ落ちて視界がすっきりと晴れていく物語です。個人的には、かわいいものが苦手な姉のため、ウェディングドレス作りを決意した弟・清澄が物語の最後で目にする朝の光を、ぜひ見届けてほしいなと思っています(こらえていても、いつもあそこで涙がふき出てしまいます。寺地さんめ…!)。
◆「SF」と切っても切れない「未来の労働」という主題を、これほど驚きと魅力に満ちた物語に昇華させたのは前代未聞。
野﨑まど『タイタン』(講談社)
講談社:担当編集
「今日も働く、人類へ」僕たちはなぜ働くのか――コロナ禍の中、それを考えさせられた一年だった。著者は、デビュー以来一貫して答えのない問いに真正面から向き合い、物語の形で答えを提示し続けてきた。「才能」とは。「天才」とは。「死」とは。「悪」とは。そんな著者が今回選んだテーマは「仕事」。だけど、本書は難しい話ではない。壮大なエンタメSFであり、AI(愛)の物語であり、そして、希望に満ちた未来のお話だ。
Q.吉川英治文学新人賞とは
2020年1月1日から2020年12月31日までに新聞、雑誌、単行本等に優秀な作品を発表した作家の中から、最も将来性のある新人作家に贈呈する文学賞。過去には宮部みゆき、伊坂幸太郎、恩田陸、池井戸潤、辻村深月などが受賞してきた、人気作家への登竜門的位置づけ。また『夜のピクニック』『一瞬の風になれ』『村上海賊の娘』など「本屋大賞」とダブル受賞となった作品もある。毎年吉川新人賞の候補作は、5年後、10年後の日本のエンタメ小説界を担う作家たちが並ぶラインナップとなっている。