【装幀のプロが分析!】吉川英治文学新人賞6候補作の装幀はここがすごい!

文字数 1,950文字

加藤シゲアキ『オルタネート』(新潮社)が候補作になったことでも話題の第42回吉川英治文学新人賞。その結果発表が3月2日(火)に迫っております。


直前スペシャルということで、treeでは、装幀のプロ・前山博俊さんにノミネート6作品のデザインを分析していただきました!

書き手:前山博俊


素敵なデザインの本を集めるウェブサイト「BIRD GRAPHICS BOOK STORE」管理人。

https://www.bird-graphics.com/

『オルタネート』加藤シゲアキ


装画:久野遥子 装幀:新潮社装幀室


【コメント】

真っ先に目を惹くのは、紙面いっぱいに大きく描かれた少女の目元に配置されたホログラム箔だ。アプリのアイコンのように見えるそれを通して、この少女は何を見て何を感じているのか?少女の視線の先に広がる物語に想像が膨らむ。カバーを広げてみると少女を含めた3人の少年少女たちがダイナミックな構図で描かれており、それぞれの物語がどのように交差していくのか興味をそそられる。青春小説らしいみずみずしさと輝きを感じさせる色使いも印象的だ。

『汚れた手をそこで拭かない』芦沢央


装画:Q-TA 装丁:大久保明子


【コメント】

遠目に見るとトーンを抑えた上品な色使いの美しい装丁に見えるのだが、手にとってみると印象がガラリと変わる。Q-TA氏によるコラージュ作品や金属が腐食したような帯の手触りからは、そこはかとない不穏な空気が醸し出されていて、その静かな不気味さに背筋がゾクッとする。まるで悲鳴のように見える帯の「もうやめて」という文字や、帯を外すと現れるボロボロの石膏像からも、静謐の中にひそむ恐怖が伝わってくるようだ。

『十の輪をくぐる』辻堂ゆめ


イラストレーション;agoera ブックデザイン:albireo


【コメント】

子供に手を引かれて歩いていく親子の姿を描いた、どこか懐かしさを憶えるノスタルジックなイラストと、流れるような筆致のタイトルロゴ、長く伸びる影、画面の上下を流れるライン。めまぐるしいスピードで変化していく時代の風に吹かれながら、さまざまな想いを抱えて生きてきた家族を象徴するような、ダイナミックで壮大なスケールのイラストレーションとデザインがとても印象的。時代が変わっても決して変わらない何か、に思いを馳せたくなる装丁だ。

『水を縫う』寺地はるな


装画:生駒さちこ 装丁:宮口瑚


【コメント】

涙で滲んだような書体のタイトルロゴと、水を縫うように走る赤い糸のステッチ、瑞々しく優しいブルーの中で静かに、けれど意思をもって凛と立つ学生服の少年が印象的。カバーを取ると手触りの良い真っ白の紙に淡いブルーの水面とタイトル、本を開くと明るいブルーの見返し、というように本全体に水の透明感や清らかさを感じさせるデザインが散りばめられている。濁りのない優しく美しい色使いが、この物語そのものを表しているかのようだ。

『愛されなくても別に』武田綾乃


装画;雪下まゆ 装丁:岡本歌織


【コメント】

まずはこちらをじっと見つめる女の子のドライで鋭い目線に心を奪われる。そしてカバーを開くと、いつまでも出しっぱなしのこたつ、空になったお皿、飲みかけのマグカップなどから、彼女たちのリアルな生活が手に取るように伝わってくる。吸引力のある雪下まゆさんのイラストレーションと、ちょっとクセのある書体のタイトルロゴ、随所に効果的に使われた黄色が、閉塞感やつらさの中でもがきながらも力強く生きていく彼女たちの姿を想像させる装丁だ。

『タイタン』野﨑まど


ブックデザイン:坂野公一 カバーアート:Adam Martinakis


【コメント】

角度を変えながら眺めると、贅沢にあしらわれた青い箔がさまざまな表情を見せる。まるで何かに苦悩するかような表情のAIと、白を基調としたシンプルなデザインが見事に融合し、近未来SFという作品の世界観を表した1枚の美術作品のようだ。カバーをめくると金属を思わせる銀一色、表紙や見返しも凝ったデザインになっていて、今回の候補作の中でもひときわ異彩を放っている。潔いまでにシンプルな帯は、情報量の多い帯が多い中でとても新鮮だ。

【告知】吉川賞受賞発表、記者会見生配信決定!


「Bundantv」3月2日17時15分~(予定)


誰が歴史ある文学賞を受賞するのか、皆さんの目で確かめてください!


https://www.youtube.com/channel/UC0zArNuGZKdvzSkfHbR9yLA/featured

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