【閲覧注意】猟奇でサイコな痺れるミステリー5冊

文字数 2,731文字

世間を恐怖に陥れる「シリアルキラー(=連続殺人鬼)」……。

その禁忌的存在は、あまたのフィクションで取り扱われ、読者を闇の世界に誘っています。


2020年11月発売の神永学氏の『悪魔を殺した男』は、そんなシリアルキラーと名探偵の対決を描く「悪魔」シリーズ第2作(ちなみに、前作『悪魔と呼ばれた男』は10月に文庫化されました)。


今回はそれに合わせた特別企画。

ときわ書房本店で働く名物書店員・宇田川拓也さんに、名探偵とシリアルキラーの対決が魅力的な小説を厳選して紹介してもらいます! 「悪魔」シリーズと合わせてお楽しみください!


(tree編集部の神永ファンより)

書き手:宇田川拓也

2000年より書店員。ときわ書房本店・文芸書担当。文芸賞の審査員や文庫解説文など、多方面に活躍中。

常に「最新作が最高傑作」を体現し続ける作家・神永学。当時、作家生活15周年の集大成として完成させた『悪魔と呼ばれた男』待望の続編、『悪魔を殺した男』がついに刊行される。あの衝撃的なクライマックスさえ、この作品ための前奏に過ぎなかったと痛感させられる予断を許さない内容は、いくつも読みどころを備えているが、今回は「猟奇的な事件」、「サイコな犯罪者」、「痺れるような面白さ」に着目し、『悪魔を殺した男』読者にオススメしたい5作品をチョイスしてみた。

【その1】

ドット・ハチソン『蝶のいた庭』(創元推理文庫)


拉致した若い女性の背中に蝶の刺青を施し、〈ガーデン〉と呼ばれる人口の楽園に閉じ込め、自らの欲望を満たしては命を奪う殺人者〈庭師〉。その魔手から救出された女性たちのひとりである“マヤ”の事情聴取を担当することになったFBI特別捜査官ヴィクターは、おぞましくも美しい地獄の全貌を知る……。


あえて直接的な残酷描写を用いず、女性たちが経験した〈ガーデン〉での異常極まりない日々を明らかにしていく筆致。「サイコキラーによる監禁イヤミス」といった印象を覆す切り口の巧さ。そして目を背けたくなるような絶望的な世界でなお生き抜こうとする者たちの物語としての強度。本当の恐ろしさとはなにかを示す、まさに痺れるような一冊だ。

【その2】

周浩周暉『死亡通知書 暗黒者』(早川書房)


ネット上で死すべき人間の名を募り、予告殺人を繰り返す謎の処刑人“エウメニデス”。時を経て、ふたたび奴が動き始めた。ベテラン刑事の死をきっかけに、復讐の女神の名を冠するこの殺人鬼に立ち向かうことになった刑事の羅飛(ルオ・フェイ)。だがそれは、自身にとって苦い過去である、18年前のある事件とも関係が……。


動機不明、正体不明、警察を嘲笑うようにどんな厳戒態勢も突破してターゲットを惨殺する恐るべき強敵“エウメニデス”を追う、警察の精鋭たち――という図式の物語だが、ひと筋縄ではいかない展開とサプライズが仕掛けられ、ページをめくる手が止まらなくなる。シリーズの第1弾として完璧な「早く続きを!」と叫ばずにはいられないラストも含め、まさに『悪魔と呼ばれた男』『悪魔を殺した男』を愉しんだ方に強くオススメする作品だ。

【その3】

ジャック・カーリイ『百番目の男』(文春文庫)


ある重大事件を解決したことから異常犯罪専門部署に配属となった刑事、カーソン・ライダー。じつは彼の優秀さには“秘密”があった。そんなカーソンが連続斬首事件の捜査を手掛けることに。死体に謎の文字を残す犯人の思いも寄らない意図とは……。


若き刑事カーソンの“秘密”は、もはやサイコ・サスペンスでは珍しくもないアイデアかもしれない。ところがそんな常套に目くじらを立てることも忘れさせるほどの一度読んだら絶対に忘れられない真相には、盛大に仰け反ること必至(まさかこんなことのために!?)。 開いた口が塞がらなくなる、ある意味「サイコ・サスペンスの極北」というべき問題作だ。

【その4】

宮部みゆき『この世の春』上中下(新潮文庫)


宝永7年の初夏、下野北見藩2万石で起こった、主君・北見重興の押込(強制的な隠居)。別邸の座敷牢に幽閉され、奇妙な振る舞いを繰り返す重興の真の人物像とは。“みたまくり”なる心を操る技、ある村の悲劇、失踪した子供たち。その先に浮かび上がる邪悪な真相とは……。


時代小説ゆえに見過ごしている向きもあるかもしれないが、日本人作家によるサイコ・サスペンスを語るうえで絶対に読み逃せない作品だ。このジャンルの金字塔的な傑作『模倣犯』に比肩する、否――野心的な試みとテーマの扱い方、ある企てのおぞましさでいうなら、むしろ分があるのは本作といえるかもしれない。

【その5】

中山七里『連続殺人鬼カエル男』(宝島社文庫)


マンションの13階からフックで吊り下げられた無惨な女性の全裸死体。現場に子供が描いたような稚拙な犯行声明を残す“カエル男”とは何者なのか? そして第2、第3の事件が起き、街の住民たちは恐怖で我を失っていく……。


“どんでん返しの帝王”の異名がすっかり定着した著者の初期作品。愛嬌のある名前とは裏腹に残虐な手口で犯行を繰り返す謎の殺人鬼の存在感が強烈で、酸鼻を極める場面の描写も容赦がない。中山七里作品といえば“どんでん返し”に加えて、社会や法律の問題に鋭く斬り込む内容が多いのも特徴だが、本作ではその両方の魅力が存分に発揮されている。続編『連続殺人鬼カエル男ふたたび』では、さらなる驚きの展開が待ち構え、想像するだけで気が遠くなりそうな殺しの手口がつぎつぎと繰り出される。

【注目!】

5選に負けぬ最新サスペンスミステリー『悪魔を殺した男』(神永学)!


当時、神永学が作家生活十五年の集大成として完成させた『悪魔と呼ばれた男』の衝撃を経験してもなお、続編『悪魔を殺した男』を読み終えたいま、こういわずにはいられない。前作は、この作品のための前奏に過ぎなかったのだと。


〝悪魔〟と畏怖される男の、四人の人間を殺したうえ、その身体に悪魔の紋様〈逆さ五芒星〉を刻んだ惨たらしい犯行に秘められた真実。そしてある〝能力〟の存在が波紋となって広がり、物語はスリリングに激しく波立ちながら、終始読み手を翻弄し続ける。


〝悪魔〟の手口を真似、死体に〈逆さ五芒星〉を刻むのは何者なのか? 警察組織のなかで繰り広げられる暗闘の行方は? クライマックスでの、まさかの展開の果てに立ち上がるタイトルの意味がわかったとき、神永学が「最新作が最高傑作の作家」であることを改めて痛感することだろう。

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