【読書エッセイ】第三話 気をつけてください! 

文字数 2,492文字




「女性不信になった話いよいよエッセイになる始末」  和田崇太郎 


「バカな男だねえ」とは思えなかった。
遠くから眺めて笑い飛ばすにはあまりに亮と自分の距離が近すぎたから。


『かごいっぱいに詰め込んで』
僕が読んだのはそんな本。他人事とは思えないぐらいには身近で誰かの日常で。
だのに没入して周りの雑音が聞こえなくなるぐらいには続きが気になる。
共感と好奇心、ついでに自己投影までさせられちゃったりなんかして。

そう、自己投影! 
「あーわかるわー」って悲しいかな自分と重ねちゃったりなんかして!

……すいません、自己紹介を忘れていました。
どんな奴がこれ書いてるかも知らせないままに思いっきり自分丸出し始める所でした。危ない所でした。

初めまして、赤面症で女の子と話せない青春時代を送ってきた和田崇太郎と申します。
これがもう本当に重症でして高校時代女子と話したのは一言だけ。体育祭の次の日に集合写真を渡してくれた女の子との「和田くん、写真」「ありがとう」の1ラリーだけでした。今尚、燦然と輝く僕の青春の1ページ。悲しい。

さて、そんな僕のここ数年をざざっとまとめさせて頂きますと、広告代理店入社を機に社会人デビューをかまし、脱サラし、俳優を目指しYouTuberとなりセフレドラマがバズり最近不倫モノのショートドラマを監督した31歳新米パパ、ということになります。

どえらいギャップにもう頭が追いつかないでしょう?
でも大丈夫、このエッセイで大事なのは「悲しい青春時代」そして「社会人デビュー」この二つだけなので。

兎にも角にも不遇の青春時代を過ごした僕、入社を機に周囲にこう宣言しました。
「俺、社会人デビューするわ」
むちゃくちゃダサい。聞いたことありますか? 自分でこれ公言するやつ。でも当時は「こんな俺も素敵やん?」と思ってたので重症です。

ただ、広告代理店ということもありチャンスは多分にあって。毎週のように合コン、ナンパを繰り返す日々でした。そんなある日、事件は起こります。とある合コンで「え、この子好きかもしれへん」と思う女性と出会った僕は二次会のカラオケで仕掛けます。隣に座りピエロよろしく先輩を盛り上げつつ、同時にその子への配慮も欠かさない。学生時代では考えられないモテ男ムーブ。そして、二次会の終盤、ついに僕はその子と手を繫ぐことに成功しました。周囲にバレずに手を繫ぐ、ああこんな青春が僕にも訪れるなんて社会人サイコー! と舞い上がり、絶対俺のこと好きやんとニヤつきながら「ちょっと俺トイレ」と言いもって席を立ち余裕ある男の背中まで披露する。完璧な青春、完璧なデビュー、そう思いながら部屋に戻るとその子は僕の先輩とチューしてました。

僕ではなく、先輩と、その子はチューしてました。

プツッと何かが切れました。それは「悲しい青春時代」にムクムクと育った女性への幻想や理想、あるいは「社会人デビュー」して得た自分への期待だったかもしれません。女性不信、そんな大袈裟な言葉で当時は括っていましたが、一言で言えば「本気になってもバカ見るだけじゃん」って拗ねただけだったんだと思うけど。

でもその日から僕は本気になるのを止めてしまいました、怖いから。女性に対して常にある種の線を引き、手軽に会える女性と手軽な関係を築くだけの日々。そりゃ今思えば反省です、何してんだって思います。
でもだから、反省しつつも亮と自分が重なってくる。

亮は彼女の浮気を機に女遊びを始めます。それっぽい理由つけて正当化すんなよ、とは思うけど、でも。

「カップ麺のようにインスタントな色気と、お手軽な雰囲気で亮をホテルや部屋に連れていく、あの魔力」
……わかる。

わかりたくはないけれど「バカな男だねえ」とはとても笑えないわけです。
似たような日々が僕にもあったから。

そんな、共感超えて共鳴しちゃうぐらい僕は亮にのめり込んだしこの本に引き込まれたわけですが、この本を読んだら殆どの人が登場人物の誰かの何処かの呟きに「そうなんだよなー!」って叫ぶんじゃなかろうかって気もしてて。
亮だけじゃない、全ての登場人物のどこかに自分の心のひだが、琴線が共鳴する瞬間があったから。
それぐらいにありふれた日常で誰のそばにもある日常で、だから覗くと共感を超えてリンクしちゃう瞬間があるんだと思う。

めっちゃ読みやすいのにしっかり刺さる深さがあって、でも殆どの人が何処かで共鳴せざるを得ないような横幅の広さもあって。
この一冊でいろいろな人のいろいろな人生に出会ったら多分、自分の人生の様々な瞬間も同時に見つめ直してる、そんな本なのかなあとか思ったり。

あ、でもあなたがこの本を読む時は。
カフェで一休みしながら、手軽に誰かの人生を覗き見る。
それぐらいの心構えが丁度良いかもしれないですね。



和田崇太郎(わだ・そうたろう)

2012年神戸大学在学中に演技を始める。その後、自身の劇団を旗揚げし500人を動員するなど関西小劇場で精力的に活動するも、単身出てきた東京ではホームレスに。 あまりに荒んだ為、一度俳優の夢を諦め2017年博報堂に入社。営業局で多岐にわたる仕事を経験するもやはり俳優を諦めきれず2020年9月に退社しYouTubeチャンネル「しゅくろーから夜ふかし」に加入。 現在ではチャンネル登録者数34万人を突破するとともに、映画や舞台にも出演し、脚本/監督/出演を務めるYouTube「オトナのドラマシリーズ」や最新作BUMP「愛の炎罪」がSNS総再生5,000万回を突破するなど多岐に渡り活動中。

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