◆No.2 「二階崩れの変」の謎
文字数 1,202文字

後の大友宗麟が世に出る、大友家の当主交代劇――
世にいう<二階崩れの変>は、謎に包まれています。
突発的な事件だったかも知れませんし、宗麟が黒幕であったとの説もあります。
私は作家であり、歴史の真実を追求する第一次的な義務はありませんので、不謹慎ですが、どうすれば小説として一番面白くなるかな……と考えるばかりです。
<大友サーガ>のなかで、私なりに二階崩れの真相は決めてありますが、
本作ではまだ秘密のヴェールに包んであります。
この政変の立役者の一人は入田親誠と目されますが、この政変で肝心の彼がはどのような役割を果たしたのか、実は定かではないのです。
入田については別の大友サーガで描きましたが、やはりまだ真相は描いていません。
ところで私は悲劇作家を自称していますが、
政変とそれに続く内戦は、血湧き肉躍る設定です。
何しろ昨日まで冗談を言い合い、酒を酌み交わしていた友が敵味方に分かれる。
時には、親族同士まで敵味方となる。
誰が敵か、味方か、それすらもはっきりしない。
外から見知らぬ敵が攻めてくるのではなくて、昨日までの友と戦わねばならないのですから。
しかも登場人物には先が読めない。情報偏在もある。
場合によっては外敵まで侵入してくる。
裏切りと陰謀、忠誠と正義が対立しながら入り混じって、登場人物の葛藤は最高潮に達します。
二階崩れも、相見知った家臣団内部での政争、闘争であるがゆえに、大友家臣たちは実際に苦悩したはずです。
内戦ものは私の好みで、他にも書いていますが、『二階崩れ』では戦よりも、政略、政争の側面を描きました。
二階崩れの変は、別邸の上原館で起こったのではないかとの説が有力です。
ただ、別邸では小さいので、小説としては大友館で事件を起こす設定としました。
現在、「大友氏館」は、国史跡として指定され、周到な時代考証に基づき復元中。
庭園部分は2020年6月に復元工事が完了しています。
まだまだ先ですが、工事の完成がとても楽しみですね!
ただ、おそらく二階は作られませんので、探さないでください。
見ればすぐにわかりますが……。

★上野原館跡
赤神 諒(アカガミ リョウ)
1972年京都府生まれ。同志社大学文学部卒業、東京大学大学院法学政治学研究科修士課程修了、上智大学大学院法学研究科博士後期課程単位取得退学。私立大学教授、法学博士、弁護士。2017年、「義と愛と」(『大友二階崩れ』に改題)で第9回日経小説大賞を受賞し作家デビュー。他の著書に『大友の聖将(ヘラクレス)』『大友落月記』『神遊の城』『酔象の流儀 朝倉盛衰記』『戦神』『妙麟』『計策師 甲駿相三国同盟異聞』がある。