◆No.6 太郎天 ~文庫版・追加エピソードにつきまして

文字数 1,217文字

戦国時代、九州の大国・大友家を揺るがしたお家騒動「二階崩れの変」を、ドラマチックに描いた日経小説大賞受賞作『大友二階崩れ』。その制作秘話を、著者・赤神 諒氏が語ります! 

単行本を文庫化する際のスタンスは、作家によりけりです。

現時点で私は改めてゲラを複数回精読して推敲を重ね、よりよく、わかりやすい表現を目指しています。ごくごく普通の話ですが、「、」や助詞の用法も再検討いたします。

時間が許せば、これに加えて、もしも適切にできるなら、筋は変えずに、一つ以上の印象的なエピソードを付け加えられれば……と考えています。

相当書き直されるエネルギッシュな作家もいらっしゃいますが、私はデビューが遅く、また、二刀流でもあるため、すでに公表した作品の改稿よりは、むしろ最新作の執筆に時間と力を使いたいと考えています

さて、本作の文庫版では、太郎天を登場させました。

太郎天は創作ではなく、実在しています。

デビュー後間もなく、作品の舞台である豊後高田市役所の皆様、地元都甲の皆様にとても温かく歓迎いただき、有意義な資料を頂戴するとともに、 色々な場所へお連れいただきました。

太郎天は吉弘家の守り神で、真っ先にご紹介いただいたものです。

今後も吉弘家の物語を書き綴っていく上は、太郎天を何らかの形で登場させたい。

専門家は、太郎天を不動明王と推測しているようですが、それにしては、優しげな童顔ですよね。平安時代に作られたとされる古い木像が、吉弘家の守り神になった経緯は、全くわかっていません。

物語に登場する太郎天の伝承は、玖珠に伝わる伝説にヒントを得た私の創作ですが、今となっては、真実も永久にわからないでしょう。

吉弘家の当主であった鑑理は、悩み多き戦国乱世にあって、守り神である<太郎天>に問いかけ、祈りを捧げていたはずです。真面目で愚直な鑑理は、各地で戦に明け暮れましたが、都甲にいる時は太郎天との対話を日課にしていたかも知れません。

実際に太郎天に会っていたと考えると、鑑理が身近に感じられますよね。

スピリチュアル系の話を私は好きなのですが、神として崇められてきた像は魂が入ってしまい、もはやただの木細工ではないと思っています。

読者の皆様も、もし機会がありましたら、太郎天のある長安寺は落ち着いた素敵な場所ですので、訪れてみてください。

※長安寺の太郎天

赤神 諒(アカガミ リョウ)

1972年京都府生まれ。同志社大学文学部卒業、東京大学大学院法学政治学研究科修士課程修了、上智大学大学院法学研究科博士後期課程単位取得退学。私立大学教授、法学博士、弁護士。2017年、「義と愛と」(『大友二階崩れ』に改題)で第9回日経小説大賞を受賞し作家デビュー。他の著書に『大友の聖将(ヘラクレス)』『大友落月記『神遊の城』酔象の流儀 朝倉盛衰記『戦神』妙麟』『計策師 甲駿相三国同盟異聞』がある。

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