◆No.7 謎の大友軍師 ──角隈石宗

文字数 1,818文字

戦国時代、九州の大国・大友家を揺るがしたお家騒動「二階崩れの変」を、ドラマチックに描いた日経小説大賞受賞作『大友二階崩れ』。その制作秘話を、著者・赤神 諒氏が語ります! 

この人物はまずもって、名前が実に個性的だと思われませんか?

初見では、まず読めませんよね。

彼以外に、「角隈」姓の人物は記録に残されていないようです。

大多数の戦国武将は、その姓を名乗る人が現在もおられますが、この姓の人は存在しないのでは? 超レアものですね。

――角隈石宗

見てください。

姓はゴツゴツとんがっているのに、名のほうは飄々として、さらり。

記す時も、姓は画数も多くて大変ですが、名の方はさっと書ける。

見た目は気難しそうで、とっつきにくいけれど、付き合ってみると、意外にいいやつ。

信用しすぎると、鋭利な角でグサリとやられそうで、危ない。

――つのくま せきそう

読み方も、特徴的です。

「つのくま」は、遠回りさせられるように、面倒くさい発音を強要される。うっかりすると舌を噛みそう。自己紹介されても、もう一度、聞き直したくなるような名前。

でも、「せきそう」のほうはスムーズに行きます。聞き間違えもなさそう。

8文字の中には濁音は1つもなく、最初は面倒くさい発音も、意外とあっさり終わります。

さて石宗は、戦国好きの人には、「大友家の軍師」として異様に有名な人物です。

彼が占筮を理由に、宗麟の南征に反対したものの、耳川(高城)合戦で戦死したエピソードは常に語られますが、いったい石宗がどこの誰なのか、出自も、所領も、家族も、ほとんど何もわかっていません。

非常に珍しい姓ですので、出身地くらい分かりそうなのに、それも不明。

ルイス・フロイスは、石宗の人物を絶賛していますが、フロイスは反キリシタンをことさら悪しざまに記す傾向もあるので、石宗は(少なくとも表向きは)キリスト教と宣教師たちに好意的な人物だったようです。キリシタンなら、そう書いたはずなので、入信はしていないのでしょう。

「何かかすかな手がかりでも」と、目を皿のようにして探し、何人かの詳しい人にも尋ねましたが、お手上げです。

石宗は大友戦国史にあって、有名な割には最も素性の分からない人物かもしれません。

要するに、小説なら、自由に書いていい人物です。

そう、この人物は、何かしでかしてくれそうな感じがしますよね?

『大友二階崩れ』でも謎めいた役割を果たします。

大友サーガにおける<武>の主柱は、何といっても戸次鑑連(立花道雪)ですが、道雪の向こうを張るほどの人物にしようと考えました。

と言っても、二人が対立して火花が飛ぶのではなくて、暖簾に腕押し、柳に風

石宗には力づくというものが通用しません。

道雪は小柄でも筋肉ムキムキですが、見た目は頭でっかちで痩せた小兵を、私はイメージしています。

道雪と石宗は、相性の悪いライバルですが、どこかで通じ合っている。

不思議な絆に結ばれた、そんな関係です。

私の中では、石宗のキャラが出来上がっています。

別府の貴船城にいるという設定も創作ですが、別府に行かれましたら、訪れてみてください。貴船城の歴史もはっきり分からないようなので、えいやと設定しましたが、石宗がこの城に関わりがあった史実などが出てきたら奇跡ですね。

温泉好きというのも、今で言うパーキンソン病なのも、私のオリジナルです。というより、彼の場合、誰が書いても、自動的にほとんどオリキャラなんですが。

実は石宗については、デビュー前にずいぶん構想して、彼を主人公とする小説を数百枚書いたのですが、「だめだ、とても規定枚数には収まらない」と考えて、途中で断念した経緯があります。

この作品もかなり面白いので、私の知名度が上がったら、いつか完成させて、上・中・下巻で出したいなと野望を抱いています。

※現在の貴船城(物語では角隈石宗の居城)

赤神 諒(アカガミ リョウ)

1972年京都府生まれ。同志社大学文学部卒業、東京大学大学院法学政治学研究科修士課程修了、上智大学大学院法学研究科博士後期課程単位取得退学。私立大学教授、法学博士、弁護士。2017年、「義と愛と」(『大友二階崩れ』に改題)で第9回日経小説大賞を受賞し作家デビュー。他の著書に『大友の聖将(ヘラクレス)』『大友落月記『神遊の城』酔象の流儀 朝倉盛衰記『戦神』妙麟』『計策師 甲駿相三国同盟異聞』がある。

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