『福猫屋』刊行記念!猫エッセイ「ねここんじゃく」③/三國青葉

文字数 1,810文字

心温まる優しい歴史小説が話題の三國青葉さんの新シリーズ「福猫屋」が開幕です。

第1弾は、『福猫屋 お佐和のねこだすけ』

その刊行を記念して、猫好きの三國さんがとっておきの「猫エッセイ」をよせてくださいました!

豆知識から三國さんのおうちの猫さんの話まで、なるほど、あるある、と膝を打つあったかエッセイ「ねここんじゃく」です!

〈あんこ検定〉/三國青葉


 猫は「塩味」「酸味」「苦味」しか感じることができないそうです。でも、うちの白猫のふぶき(通称ぷー)は普段の食事にはそれほどこだわらないくせに、猫にしてはなぜかあんこにうるさい。


 お酒が飲めない私は大の甘党で、よくお菓子のお取り寄せをしています。あんこが入ったお菓子を食べていると「下僕よ、また太るぞ」と寄って来て、ふんふんとにおいをかいだ後、ぷいっとそっぽをむいてしまうことがほとんど。あの老舗も、この有名店も、軒並みばっさりでございます。いつぞやも江戸時代から続くという隣県の老舗の最中のあんこを差し出してみると、においをかいでしばし黙考。『これはもしや』と正座で待機していたところ、おもむろにぷいっ! 老舗どの、あと一歩でござった……。


 ちなみにそんなぷーが厳選したあんこは、とらやの最中と御座候(回転焼)の白あん。長らくこのふたつだったのですが、幾度も『あんこ検定』を繰り返しました結果、神戸のケーニヒスクローネの『神戸に住んでるこぐま(粒あん)』が加わりましたのでございます。求肥の入った小さな三笠山(どら焼き)のあんこを指につけて差し出してみると、「うむ。よし、合格じゃ」。これは快挙です!


 そしてこの年、あんこにうるさいぷーは突然この世を去りました。あと3ヶ月で12歳になる夏の日、朝起きたら亡くなっていたのです。直前まで元気で、カリカリを食べてトイレをすませ、お気に入りの布団の上で眠っているうちに逝ってしまいました。その前に飼っていた猫のぴぴ(通称ぴー オスのペルシャ)は背中に肉腫ができ、闘病ののち4歳で亡くなったので、「ぷーは苦しまずに虹の橋を渡れるといいね」と言っていたのがその通りになりました。さようならも言えずに逝かせてしまい悔やむことばかりでしたが、苦しんだ様子もなく穏やかな顔をしていたのはせめてものことでした。


 ぷーは生後ひと月で母親と死に別れさまよっていたところを保護し、ミルクから育てました。女の子なのに6キロ近くもあって、ワガママで気が強いけれどとても面白い、私の大切な大切な宝物でした。ぷーちゃん、たくさんの幸せと喜びをありがとう。


 あれからもう12年になります……。


*本来猫に甘いあんこを与えるのはNGです。 

*ケーニヒスクローネの『神戸に住んでるこぐま』というどら焼きは現在は販売されていないようですが、『神戸に住んでる小ぐま』というクマの顔の形をしたとてもかわいくておいしいサブレがあります。

三國青葉(みくに・あおば)

兵庫県生まれ。お茶の水女子大学大学院理学研究科修士課程修了。2012年「朝の容花」で第24回日本ファンタジーノベル大賞優秀賞を受賞し、『かおばな憑依帖』と改題してデビュー(文庫で『かおばな剣士妖夏伝 人の恋路を邪魔する怨霊』に改題)。幽霊が見える兄と聞こえる妹の話を描いた『損料屋見鬼控え』は霊感のある兄妹の姿が感動を呼んで話題になった。その他の著書に『忍びのかすていら』『学園ゴーストバスターズ』『学園ゴーストバスターズ 夏のおもいで』『黒猫の夜におやすみ 神戸元町レンタルキャット事件帖』 『心花堂手習ごよみ』などがある。

夫を亡くして塞ぎこむお佐和を救ったのは迷い猫だった。

彼女は恩返しに貸し猫の店を思いつき……。

江戸のペット事情を描く時代小説!


錺職人の夫を若くして亡くしたお佐和は仕事場を兼ねた広い家にポツンと一人取り残された。夫を追いかけたいと思うほど落ち込んでいたが、そこへ腹の大きな野良猫が迷い込む。福と名づけたその猫の面倒を見るうちに心癒やされ、お佐和は立ち直りを見せる。すぐに子猫が5匹生まれ、また、甥っ子の亮太や夫の兄弟子だった繁蔵もお佐和の家に立ち寄るようになり、お佐和の家はすっかり明るさを取り戻していく。そんなある日、繁蔵の長屋の大家から福に「ネズミ捕り」の依頼が舞い込む。江戸時代のペットショップ「福猫屋」が始まるきっかけだった……。

新シリーズ開幕記念!

初回限定 特製・猫しおりつき!

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