『福猫屋 お佐和の猫わずらい』刊行記念書下ろしエッセイ①

文字数 2,381文字

イラスト/東 久世

ほっこりほんわか、やさしさいっぱい猫いっぱいの三國青葉さんの「福猫屋」シリーズ、第3弾『福猫屋 お佐和のねこわずらい』が刊行です!

刊行を記念して、猫好きの三國さんがまたまたとっておきの「猫エッセイ」をよせてくださいました!

「我が家のお猫様」/三國青葉


 今まで私が下僕としてお仕えしたお猫様方についてお話ししようと思います。


最初のお猫様はたった1日しかうちにいませんでした。40年以上前、デパートのペット売り場の里親募集コーナーでもらってきたキジトラの雌の子猫「みーこ」は体調が悪くなって動物病院に入院、5日ほどのちに亡くなりました。猫汎白血球減少症(猫伝染性腸炎)に感染していたものと思われます。みーこは東京八王子のお寺のペット霊園に葬られましたが、入院・治療や葬儀・法事などでお金がかかったことを申し訳なく思ったのでしょう。毎年お寺に供養料を振り込むと、私たち家族全員の夢に現れるのです。そしてそれは10年後、永代供養料を納めるまで続きました。律儀な子です。


2匹目のお猫様は、ペルシャのブラウンタビー、銅色の目をした雄の「ぴぴ(通称ぴー)」。30年前、ペットショップで購入。生後2カ月でした。初めてお猫様にお仕えしたもので下僕は粗相が多く、迷惑をかけました。なかでも最大の失敗は、ぴー様3カ月のみぎりの「毛玉と勘違いし、もうちょっとでちょんぎって去勢しちゃうところだった事件」でしょうか……。ちなみに去勢手術は、3カ月後にちゃんと病院で受けました。麻酔から醒めたぴーが傷口をなめようとして「俺の大切なものが無いっっっ!!!」と驚愕していたのが今でも忘れられません。ぴーは7キロ近い巨漢で、おっとりとしたおおらかな性格の頭の良い猫でしたが、背中に肉腫ができて、あっという間に4歳で亡くなってしまいました。


3番目は、白猫で青い目の雌猫「ふぶき(通称ぷー)」25年前、生後ひと月で親と死に別れて道路を横断しようとしているところを保護しました。ぴーとぷーは1年ほど一緒に暮らしましたがとても仲良しでした。ぴーをメロンが好物で缶詰の銘柄にもうるさいグルメに育ててしまった反省から、ぷーにはごく普通の餌を食べさせていたのですが、ある日ぷーのご飯を嗅いだぴーが、猛烈な勢いで砂かけ動作をしました。


「こんなまずいもん食べたらあかん!もっと猫として誇りを持て!」「はい!先輩!」ということで、ぷーはうっすら涙すら浮かべ大喜びで食べていたご飯を断固拒否するようになってしまいました。ぷーをたいそうかわいがっていたぴーですが、自分のほうが偉いということはきっちり示したかったらしく、しばしばキャットタワーのてっぺんに寝そべり、上がってこようとするぷーの頭をぺしぺしと叩いて阻止していました。


また、段ボールでできた爪とぎハウスをぷーが使っていたところ、「俺は当然ここだろう」とぴーが屋根に乗ったため、爪とぎハウスはあっけなく崩壊。一瞬で使い物にならなくなってしまいました。それから程なくぴーは他界。遺されたぷーはわがままで気が強くて面白い、6キロの大猫に育ちました。ぷーは病気ひとつしない元気な猫で、ぴーの闘病が辛かったため、「ぷーが年をとって亡くなるとき、苦しまないといいね」と言っていたらその通りになりました。11歳の夏、朝起きたら亡くなっていたのです。


突然ぷーに世を去られた下僕はペットロスになり、「猫で空いた心の穴は猫でしかふさがらない」という知人の言葉に背中を押され、保護猫だった生後7か月、緑色の目をしたキジトラの雌「ごっち」にお仕えすることになりました。ごっちは保護された当時おとなしすぎて病院で診てもらったそうですが、うちへ来て3日でかぶっていた猫を脱ぎ捨て、現在に至ります。頭が良くて、自分の思い通りに下僕を動かすのが上手ですが、大変なびびりです。体重は4キロ半。先天性の脂質代謝異常という猫には非常に珍しい持病のせいで通院と1日4回の投薬が欠かせませんけれど、無事13歳になりました。下僕は1日でも長くお仕えする所存です。


左・ごっち、右上・ぴー、右下・ぷー
三國青葉(みくに・あおば)

兵庫県生まれ。お茶の水女子大学大学院理学研究科修士課程修了。2012年「朝の容花」で第24回日本ファンタジーノベル大賞優秀賞を受賞し、『かおばな憑依帖』と改題してデビュー(文庫で『かおばな剣士妖夏伝 人の恋路を邪魔する怨霊』に改題)。幽霊が見える兄と聞こえる妹の話を描いた『損料屋見鬼控え』は霊感のある兄妹の姿が感動を呼んで話題になった。その他の著書に『忍びのかすていら』『学園ゴーストバスターズ』『学園ゴーストバスターズ 夏のおもいで』『黒猫の夜におやすみ 神戸元町レンタルキャット事件帖』 『心花堂手習ごよみ』などがある。

お佐和が務めるのは、常連客である武家の恋の橋渡し。相手の女性とは。猫好き同士の恋は叶うか──書下ろし・あったか時代小説!


福猫屋で言い争いをはじめたのは常連客の武家・権兵衛と、花津という女子。猫好きが高じて、縮緬細工の三毛猫を奪い合っているのだ。お佐和の機転で二人の争いはいい雰囲気を残して決着するのだが、花津が店を去ってから、権兵衛が彼女の素性について何も訊いていないことがわかる。お駒らお年寄りたちやお佐和の、「権兵衛の春」への淡い期待も霧消するのであった。福猫屋で花津の再訪を待つしかないと皆は諦めかけるものの、ときどき店に顔を出す権兵衛本人は、むしろ花津に会いたい気持ちを高めているようなのだ。出会った日から半月が過ぎても花津は福猫屋に現れることはなかった。主人の大殿と店に訪れた権兵衛は落胆する。さらに10日後、大殿の知り合いの古賀家の奥方が、子猫を引き取りに福猫屋にやってくる。そこへ付き従って侍女の姿に、権兵衛は驚愕する……。

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