『福猫屋 お佐和の猫わずらい』刊行記念書下ろしエッセイ③

文字数 2,043文字

イラスト/東 久世

ほっこりほんわか、やさしさいっぱい猫いっぱいの三國青葉さんの「福猫屋」シリーズ、第3弾『福猫屋 お佐和のねこわずらい』が刊行です!


刊行を記念して、三國さんと愛猫たちの「仕返し合戦」を綴った、ここでしか読めない書下ろし「猫エッセイ」を掲載!

③「猫の仕返し」/三國青葉


 今回は、我が家のお猫様たちの「仕返し」についてお話ししたいと思います。「仕返し」というのは、うっかり下僕が足や尻尾を踏んでしまったときなどのお猫様の反応を指します。


 まず、おっとりおおらかなペルシャの雄「ぴー」(約7キロ)は、こちらが尻尾を踏んだのをすっかり忘れ去ったころ、すれ違いざまに下僕の足を前足でそっとタッチするのが常でした。「覚えていますか?あなたは下僕の分際で僕の尻尾を踏んだんですよ」「す、すみません。以後気をつけます」という感じで、私も素直に反省。


 わがままで気が強い白猫の雌「ぷー」(およそ6キロ)は、喜びも怒りも悲しみも、感情はすべて噛むことで表現する子だったため、下僕は生傷が絶えませんでした。たとえばのんびり読書をしていてふと気がつくと、ぷーがなぜか座ったまま感情を高ぶらせています。目がすわり耳がみるみる赤みを増し……。これは絶対「来る!」。私も覚悟を決めて静かに待ちます。そしてぷーが飛びかかってくる瞬間、「はっ!」と声を出しながら、手首の外側で攻撃を受け止めるのです。そんなぷーと幅広のゴム紐で引っ張りっこをして遊んでいて、うっかり私が手を放してしまったことがありました。「バッチーン!」ゴム紐にしたたか鼻を打たれたぷーは「にゃーっ!」と叫びながら駆け去って、私は鼻血が出たのではとおろおろしながら平謝り。しかし、次の瞬間、猛然と引き返してきたぷーはジャンプ一番、大口を開けて私に襲い掛かって来たのです。流血したのは下僕のほうでした……。


 今お仕えしているキジトラの雌「ごっち」(4キロ半)はびびりなので、仕返しをすることなく逃げてしまい、しばらくジト目で非常に警戒されます。もう13年も誠心誠意お世話をしているというのにいまだ信用してもらえず、いったい私は何なんだろうと自問する日々です。そしてごっちは気に入らないことがあったり興奮したりすると噛む子でもありまして。爪切りをしていて辛抱が切れると噛み、頭をなでさせておいて「もういい」と言う代わりに噛み、もっと抱っこを続けよと噛み、遊んでいて楽し過ぎると噛み……という具合です。ごっちは先天性の脂質代謝異常という猫にはとても珍しい持病があるので投薬と定期的な血液検査・尿検査が欠かせません。嫌なことのオンパレードな病院の診察でご迷惑をおかけしているのではと心配になっておそるおそる尋ねてみると、「えっ!ごっちゃんって噛むの?」とか「ごっちゃんは甘噛みだから」とか、「おとなしくてとってもいい子ですよ」などという答えが返ってきました。この、内弁慶さんめ!!! 


 ちなみにかつて病院で点滴をされたとき、ぴーは点滴のチューブを噛み、ぷーは先生の手に噛みつこうとしました。ごっちは点滴をしたことがないけれど、きっと私の手を噛むに違いありません。

 「仕返し」より「恩返し」を猫様にお願いしたい下僕です……。


左・ごっち、右上・ぴー、右下・ぷー
三國青葉(みくに・あおば)

兵庫県生まれ。お茶の水女子大学大学院理学研究科修士課程修了。2012年「朝の容花」で第24回日本ファンタジーノベル大賞優秀賞を受賞し、『かおばな憑依帖』と改題してデビュー(文庫で『かおばな剣士妖夏伝 人の恋路を邪魔する怨霊』に改題)。幽霊が見える兄と聞こえる妹の話を描いた『損料屋見鬼控え』は霊感のある兄妹の姿が感動を呼んで話題になった。その他の著書に『忍びのかすていら』『学園ゴーストバスターズ』『学園ゴーストバスターズ 夏のおもいで』『黒猫の夜におやすみ 神戸元町レンタルキャット事件帖』 『心花堂手習ごよみ』などがある。

お佐和が務めるのは、常連客である武家の恋の橋渡し。相手の女性とは。猫好き同士の恋は叶うか──書下ろし・あったか時代小説!


福猫屋で言い争いをはじめたのは常連客の武家・権兵衛と、花津という女子。猫好きが高じて、縮緬細工の三毛猫を奪い合っているのだ。お佐和の機転で二人の争いはいい雰囲気を残して決着するのだが、花津が店を去ってから、権兵衛が彼女の素性について何も訊いていないことがわかる。お駒らお年寄りたちやお佐和の、「権兵衛の春」への淡い期待も霧消するのであった。福猫屋で花津の再訪を待つしかないと皆は諦めかけるものの、ときどき店に顔を出す権兵衛本人は、むしろ花津に会いたい気持ちを高めているようなのだ。出会った日から半月が過ぎても花津は福猫屋に現れることはなかった。主人の大殿と店に訪れた権兵衛は落胆する。さらに10日後、大殿の知り合いの古賀家の奥方が、子猫を引き取りに福猫屋にやってくる。そこへ付き従って侍女の姿に、権兵衛は驚愕する……。

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