『福猫屋 お佐和の猫わずらい』刊行記念書下ろしエッセイ②

文字数 1,917文字

イラスト/東 久世

ほっこりほんわか、やさしさいっぱい猫いっぱいの三國青葉さんの「福猫屋」シリーズ、第3弾『福猫屋 お佐和のねこわずらい』が刊行です!

刊行を記念して、猫好きの三國さんがよせてくださったとっておきのねこねこエッセイ、第2回は猫好きとして有名な浮世絵師・歌川国芳のこぼれ話です!

② 其まま地口猫飼好五十三疋/三國青葉


 歌川国芳〈うたがわくによし〉は、江戸時代末期に活躍した有名な浮世絵師です。国芳の出世作は、水滸伝の英雄を題材にとったダイナミックな武者絵。「武者絵の国芳」として名を馳せました。一方で国芳は猫の絵も多く描いています。


 国芳は大変な愛猫家でした。常に5、6匹の猫を飼い、絵を描くときも、懐に1、2匹の子猫を入れていたとのこと。また、飼っていた猫が亡くなると、両国の回向院で供養してもらって、いただいた戒名をひとつずつ記した位牌を、猫のためのお仏壇に飾っていたそうです。なんと猫の過去帳もあったとか。


 師匠の猫好きに、弟子もとばっちりを食らいます。国芳の愛猫が行き方知れずになったときは、たくさんいた弟子たちが総出で探すはめになりました。また、ある日猫が亡くなり、国芳は弟子の歌川芳宗〈よしむね〉に猫の亡骸とお布施を託し、回向院で供養してもらうようにと頼みました。芳宗は回向院の近くの両国橋までやってきましたが、そこで猫の亡骸を捨て、お布施を着服して遊郭で遊んでしまいました。国芳は芳宗を破門にしたそうです(ちなみにこの芳宗、国芳に十数回破門されても、その都度国芳のところに戻っていたとのこと)。


 さて、この国芳に、「其まま地口猫飼好五十三疋」〈そのままじぐちみゃうかいこうごじゅうさんびき〉という嘉永元年(1848年)に描かれたものがあります。東海道の五十三の宿場と日本橋、京都を加えた55か所を、地口(語呂合わせ、駄洒落)と、それを表す猫を描いています。いわば猫の東海道。たとえば、わらでくくってある鰹節から2本を引っ張り出している猫。2本の出汁。側に「二本だし」の文字が記され、「にほんだし→日本橋」という具合です。


 岡持のにおいをかいでいる猫。かばやきと書いてあるので、ウナギのかば焼きが入っているのでしょう。「かばやき→川崎」


 サバをくわえているぶち猫に添えて「ぶちさば」と書かれています。「ぶちさば→藤沢」


 大きなタコを重たそうに引きずっている猫。「おもいぞ→大磯」


 香箱座りをしたまま眠っている猫。「へこね→箱根」


 手拭いでほおかむりをして踊っている三毛猫は、尻尾がふたつに分かれていることから猫又と思われます。三毛の魔物なので「三毛ま」の文字が。「みけま→三島」


 喉を掻いている猫に「のどかい」の文字。「のどかい→ほどがや→保土ヶ谷」って、これは苦しい気がします……。


 中にはかなりのこじつけもあるんですが、そこはご愛敬。猫たちの格好や表情がほんとうに「猫あるある」。猫好きの国芳ならではの楽しい作品です。


三國青葉(みくに・あおば)

兵庫県生まれ。お茶の水女子大学大学院理学研究科修士課程修了。2012年「朝の容花」で第24回日本ファンタジーノベル大賞優秀賞を受賞し、『かおばな憑依帖』と改題してデビュー(文庫で『かおばな剣士妖夏伝 人の恋路を邪魔する怨霊』に改題)。幽霊が見える兄と聞こえる妹の話を描いた『損料屋見鬼控え』は霊感のある兄妹の姿が感動を呼んで話題になった。その他の著書に『忍びのかすていら』『学園ゴーストバスターズ』『学園ゴーストバスターズ 夏のおもいで』『黒猫の夜におやすみ 神戸元町レンタルキャット事件帖』 『心花堂手習ごよみ』などがある。

お佐和が務めるのは、常連客である武家の恋の橋渡し。相手の女性とは。猫好き同士の恋は叶うか──書下ろし・あったか時代小説!


福猫屋で言い争いをはじめたのは常連客の武家・権兵衛と、花津という女子。猫好きが高じて、縮緬細工の三毛猫を奪い合っているのだ。お佐和の機転で二人の争いはいい雰囲気を残して決着するのだが、花津が店を去ってから、権兵衛が彼女の素性について何も訊いていないことがわかる。お駒らお年寄りたちやお佐和の、「権兵衛の春」への淡い期待も霧消するのであった。福猫屋で花津の再訪を待つしかないと皆は諦めかけるものの、ときどき店に顔を出す権兵衛本人は、むしろ花津に会いたい気持ちを高めているようなのだ。出会った日から半月が過ぎても花津は福猫屋に現れることはなかった。主人の大殿と店に訪れた権兵衛は落胆する。さらに10日後、大殿の知り合いの古賀家の奥方が、子猫を引き取りに福猫屋にやってくる。そこへ付き従って侍女の姿に、権兵衛は驚愕する……。

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