『福猫屋 お佐和のねこかし』刊行記念スペシャルエッセイ②/三國青葉

文字数 1,951文字

心温まる優しい歴史小説が話題の三國青葉さんの新シリーズ「福猫屋」、第2巻が刊行です!。

第2弾は、『福猫屋 お佐和のねこかし』

その刊行を記念して、猫好きの三國さんがまたまたとっておきの「猫エッセイ」をよせてくださいました!

猫エッセイ第2弾は、海を渡ってきた金沢猫のはなしです!

金沢猫/三國青葉


 私はかつてSFファンで、学生時代もSF研究会に所属していました。その後突然時代劇にはまり、時代劇オタクが高じて現在時代小説を書いております。なので、もちろんNHKの大河ドラマ『鎌倉殿の13人』も、登場人物がどんどん亡くなる辛い展開に「もうヤダ」と弱音を吐きながら毎週欠かさず観ておりました(まこと神ドラマでござった……)。


 武衛の皆様、ごきげんよう。北条義時と伊賀の方(『鎌倉殿の13人』ではのえさん)の孫に北条実時という人物がいます。実時は11歳で小侍所別を務めた(当時の執権は実時の伯父で烏帽子親でもあった北条泰時)のを振り出しに、引付衆、評定衆、越訴頭人、寄合集など幕府の要職を歴任しました。


 鎌倉幕府に仕える儒家清原教隆に経史、律令を学び、農政、軍学、はたまた伯父で舅の北条政村の薫陶で文学にも明るかった実時は文化人としての顔も持ち、引退したあとは、領地である六浦荘金沢(横浜市金沢区)に蔵書を収めた金沢〈かねさわ〉文庫(図書館)を建てました(実時の家系を金沢流北条氏といいます)。金沢文庫には和漢の貴重な書籍が数多くあり、学問を志す人々が集い講義も行われ、金沢学校と呼ばれる中世関東の学問の中心となりました。実時の孫貞顕〈さだあき〉も学問好きだったので、さらに蔵書が増え充実したとのことです。しかし、鎌倉幕府(と金沢流北条氏)の滅亡とともに金沢文庫は衰退し、金沢流北条氏の菩提寺であった称名寺〈しょうみょうじ〉が管理するようになったものの、残念なことに江戸時代に蔵書の多くが散逸してしまいました。1930年に復興し、現在は『神奈川県立金沢文庫〈かなざわぶんこ〉』という県立歴史博物館になっています。


 この金沢文庫に実時が中国から書物を取り寄せたとき、船内でのネズミの害(書物をかじる)を防ぐために乗せてきた猫のことを地元では『金沢猫』と称し、さらにこれが略されて『かな』と呼ばれるようになりました。ネズミ捕りがとても上手な良い猫で『逸物』と評され大人気でした。背をなでると日本の猫とは逆に背を低くし、三毛で尾が短かったそう(金沢猫の容姿については諸説あります)。この金沢猫たちは中国へは帰らず、金沢〈かねさわ〉の地に住み着いて繁殖し、子孫が江戸時代にもいて土地の名物となっていました。ネズミ捕りがとても上手な斑紋の猫だったようです。当時藤沢のあたりで猫の子をもらうときに素性を聞くと、「金沢猫だ」と答えが返ってくるのが常だったとか。それほど金沢猫はブランドとして人気だったのです。金沢猫の言い伝えは昭和30年代まで残っていました。


 実時ゆかりの称名寺を参拝した複数の方々がWebにかわいい猫さんの画像をあげていらっしゃるのを見かけたのですが、きっとあの子たちは金沢猫の子孫に違いないと、私はひそかに思っています。金沢猫(かな)の名はすたれてしまいましたが、その血を引く猫たちはきっと、今でも金沢の町のあちらこちらで人々に愛されのんびり暮らしているのです……。


三國青葉(みくに・あおば)

兵庫県生まれ。お茶の水女子大学大学院理学研究科修士課程修了。2012年「朝の容花」で第24回日本ファンタジーノベル大賞優秀賞を受賞し、『かおばな憑依帖』と改題してデビュー(文庫で『かおばな剣士妖夏伝 人の恋路を邪魔する怨霊』に改題)。幽霊が見える兄と聞こえる妹の話を描いた『損料屋見鬼控え』は霊感のある兄妹の姿が感動を呼んで話題になった。その他の著書に『忍びのかすていら』『学園ゴーストバスターズ』『学園ゴーストバスターズ 夏のおもいで』『黒猫の夜におやすみ 神戸元町レンタルキャット事件帖』 『心花堂手習ごよみ』などがある。

頬ずりしたり、じゃらしたり。

福猫屋の新商売「猫茶屋」が大繁盛!

文庫書下ろし・あったか時代小説!


ネズミ捕りの猫を手配したり、猫をあしらった小物を作ったり、さらには子猫と遊びたい客が存分に楽しめる猫茶屋を開いたりして、福猫屋の経営もやっと軌道に乗りかけてきた。そんな矢先、突然猫が消える「猫さらい」の噂が伝わってくる。すでに地元の両国界隈で発生しているらしい。三味線に使う目的のためにトラ猫と白猫が売り飛ばされているという噂まで上っていた。果たして福猫屋では白猫のユキが行方不明になった。犯人は客の中にいるのだろうか。そしてこの「猫さらい」をきっかけに、お佐和が思いついた新たな商売とは……。

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