第22回 SATーlight 警視庁特殊班/矢月秀作

文字数 2,532文字

累計100万部超の大人気シリーズ「もぐら」でおなじみの矢月秀作さんがtreeで「SATーlight(警視庁特殊班)」を好評連載中!

SITやSAT(警視庁特殊部隊)よりも小回りが利く「SATーlight(警視庁特殊班)」の面々の活躍を描く警察アクション・ミステリー。

地下アイドル・アイリを助けにいった平間は……⁉


毎週水曜日17時に更新しますので、お楽しみに!

《警視庁特殊班=SAT-lightメンバー》


真田一徹  40歳で班のチーフ。元SATの隊員で、事故で部下を死なせてSATを辞めたところを警視庁副総監にスカウトされた。


浅倉圭吾  28歳の巡査部長。常に冷静で、判断も的確で速い。元機動捜査隊所属(以下2名も)


八木沢芽衣 25歳の巡査部長。格闘技に心得があり、巨漢にも怯まない。


平間秋介  27歳の巡査。鍛え上げられた肉体で、凶悪犯に立ち向かう。

 足元の明かりがうっすらと二人を照らす。刃物の切っ先は平間の前で止まっている。平間が両手で男の右腕を押さえていた。

「その程度の腰の入れ方じゃ、俺には届かねえな」

 平間は首を引いた。男の顔面に頭突きを叩き込む。男の顔が仰け反った。手から刃物をもぎ取り、背後に回る。

 膝裏を蹴って両膝をつかせ、髪の毛を握った。喉笛に刃を当てる。

「おまえら、何者だ?」

 平間が訊く。

 男は答えない。

「切り裂くぞ」

 刃を少し引く。皮膚が切れ、血がにじむ。

 と、道路の上で車のヘッドライトが揺れた。平間は男の後ろ首にナイフの柄を叩き込んだ。男が息を詰め、前のめりに倒れた。

「行くぞ!」

 ナイフを投げ捨て、アイリの手を取る。

 アイリは引かれるまま走った。平間はヘルメットを取って、バイクをまたいだ。

「かぶって!」

 アイリの頭にヘルメットを載せる。アイリはヘルメットをかぶった。

「乗って!」

 平間が言うと、アイリはタンデムシートに乗った。アイリの腕を引っ張り、平間の腰に巻かせる。

「しっかりしがみついて!」

 平間はセルボタンを押した。エンジンがかかる。アイリの腕が腰にしっかり巻き付いたことを確認し、スロットルを回した。

 前輪が少し跳ね上がり、バイクが急発進する。アイリは平間の背に顔を押し付けた。

 バイクは山道を下っていく。車のヘッドライトはバイクを追ってきていた。

 湖北ビューラインへの分岐まで来た平間は、バイクのヘッドライトを消した。暗がりの中、ぽつりぽつりと住宅がある細い道へと入っていく。

 ブレーキはなるべく使わず、アクセル操作だけで狭い道路を右へ左へと進んだ。

 住宅地を抜けたところに墓地があった。参道にバイクを進め、奥へ行き、大きな墓石の裏でバイクを停める。

「タクさん……」

「大丈夫。静かに」

 スタンドを立て、バイクから降り、アイリも降ろす。アイリを墓石の陰に座らせ、自分は片膝をついて屈んだ。

 スマホを取り出して場所を確認し、地図画像をスクリーンショットで保存した。真田に連絡を入れる。

「……もしもし、俺です。アイリちゃんは保護しました。現在地を送るので、パトカーを何台か回してください。敵が引いたのを確認次第、ここから離脱します」

 平間は言い、電話を切った。

「タクさん、何者なの……?」

 アイリが訊く。

 平間は息をついて、うなだれた。アイリに着せたジャンパーに手を伸ばす。内側の隠しポケットから身分証を取り出した。

 開いて、スマホのライトで照らす。

「警視庁特殊班、平間秋介だ」

 平間は名乗った。

「タクさんじゃないの?」

 アイリの目には戸惑いと非難が同時に滲んだ。

「すまない。事情はまた落ち着いてから話す。今はとにかく、ここから脱出することが先決だ。それに君の手当てもしないと」

「病院はダメ。絶対にダメ」

 アイリが両足を抱え込んで、小さくなった。

「大丈夫。警察病院へ連れて行くから」

「そこもダメ。警察へ行ったことがわかれば、他のメンバーが……」

「どういうことだ?」

 平間が訊く。

 アイリは膝頭に顔をうずめて、啜り泣いた。震えている。

 平間はアイリの肩にそっと手を置いた。アイリの体がびくっと揺れる。

「アイリちゃん。騙していたことは悪かった。でも、必ず君やハニラバのメンバーは守るから、信じてほしい」

 平間は声をかける。アイリは顔を伏せたまま、返事はしなかった。

 仕方ないか……。

 平間は小さく息をついて、周囲の様子に神経を向けた。


     2


 その夜も芽衣はS&Gに来ていた。カウンターで一人、所在なさげに水割りを傾けている。

 谷が他の客から離れ、芽衣の前に来た。

「今日はギターケースを持ってないんですね」

 笑顔で話しかけてきた。

「なんだか、バカバカしくなっちゃって。それっぽく気取っても、弾けないんじゃ意味ないですもんね」

 ため息をついて、水割りを飲み干す。

「ジントニックください」

「承知しました」

 谷は笑顔で手際よくジントニックを作った。空いたグラスを下げると共に新しいグラスを差し出す。

 芽衣はグラスを握って、またため息を漏らした。

「こないだも、オーディションに行ってきたんです」

「ほお、何のオーディションですか?」

「アイドルグループの。マスター、フラップって事務所知ってます?」

 芽衣が名前を出した。

 谷の目尻がかすかにびくっとした。しかし、笑顔は崩れない。

「いえ、聞いたことはないですね」

「フィールライクアッププロジェクトって会社なんですけど。そこ、いろんなアイドルグループがあって、比較的、誰でも入れるって噂だったんですよね。だから、受けてみたんだけど、簡単に落とされちゃいました」

この続きは来週水曜日に掲載! お楽しみに!

矢月 秀作(やづき・しゅうさく)

1964年、兵庫県生まれ。文芸誌の編集を経て、1994年に『冗舌な死者』で作家デビュー。ハードアクションを中心にさまざまな作品を手掛ける。シリーズ作品でも知られ「もぐら」シリーズ、「D1」シリーズ、「リンクス」シリーズなどを発表しいてる。2014年には『ACT 警視庁特別潜入捜査班』を刊行。本作へと続く作品として話題となった。その他の著書に『カミカゼ ―警視庁公安0課―』『スティングス 特例捜査班』『光芒』『フィードバック』『刑事学校』『ESP』などがある。

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