■No.2 一騎当千の女水将──鶴姫<その1>
文字数 1,450文字
『立花三将伝』で戦国の世を駆け抜けた若き将士たちの熱き友情と生きざまを描いた赤神 諒氏。今作『空貝 村上水軍の神姫』では、「瀬戸内のジャンヌ・ダルク」の異名をとる伝説的女武将・鶴姫と、同族ながらも主家への復讐を企む若き軍師・越智安房が、日本最強と言われた大内海軍とともに戦い、衝突しながらも惹かれあっていく様がドラマチックに描かれています。壮大な「歴史恋愛小説」の裏話を、赤神諒氏が語ります!
鶴姫は大柄な美人で、弓が得意だったと伝わっています。
戦国ゲームでは、女性キャラが少ない事情もあって、よく登場するそうです。
私のゼミ生には、鶴姫の友人までいました。(←いるわけないだろ)
ちなみに、私はゲームを一切やりません。
馬鹿にしているとかでは決してなく、プロが作っているので、むちゃくちゃ面白いはずです。意志の弱い私などが手を出せば、きっとのめり込んでしまい、小説を書く時間がなくなるのが、目に見えているからです。
『空貝』では、鶴姫を〈一騎当千の女水将〉として設定しました。
使えない武器はおよそ、ありません。
まさにオールマイティ。はっきり言って、強すぎます。
とはいえ、筋骨隆々?の大柄な女性は、私のイメージとは違うんです。
のっしのっしと歩く大柄な巫女さんがいらしてもいいのですが、やはり鶴姫は小柄なほうが……。
戦場でも、義経みたいな八艘跳びとか、大男の肩に乗っての弓射とか、物語で実際に活躍してもらう彼女の動きをイメージすると、小柄で俊敏なタイプがしっくり来るのです。
そこで、鶴姫は力よりも、敏捷さと正確性、技術に優れた女武将としました。
武器は、小太刀の二刀流。
弓は百発百中に近いですが、威力と飛距離はない。
鶴姫は武勇だけではありません。
伝説でも、海上戦の統率にも優れている水将でした。
ですが、何もかも初めてなのに勝ち続けるなんて、現実にはありえても、小説では不自然ですよね。
そこで彼女は、物語開始時点で、実は村上通康が頭領を務める〈来島村上水軍〉に入り浸っており、すでに〈海賊〉を経験している設定にしました。
伝説の彼女は、戦で負け知らずです。
勝ったのに、最後は入水するわけでね……。
この基本構図は変えていませんが、簡単に勝ってはつまりませんよね。
物語では、敵が常に圧倒的に有利な状況で攻めてきます。
鶴姫は作戦立案についても一流の域にありますが、敵にも同レベルの知恵者がいて苦戦する。大軍相手に、寡兵で逆転勝利をする力はないわけですね。
その上、敵将として、得意の武勇でも彼女より圧倒的に強い漢が登場します。
鶴姫がどれだけ優れた水将であっても、彼女一人では勝利できない。
彼女に足りない才能は、圧倒的な兵力差を覆す天才的な作戦立案能力です。
鶴姫が嫌う一人の若者の知力を借りねばならなくなるわけですね。
赤神 諒(アカガミ リョウ)
1972年京都府生まれ。同志社大学文学部卒業、東京大学大学院法学政治学研究科修士課程修了、上智大学大学院法学研究科博士後期課程単位取得退学。私立大学教授、法学博士、弁護士。2017年、「義と愛と」(『大友二階崩れ』に改題)で第9回日経小説大賞を受賞し作家デビュー。他の著書に『大友の聖将(ヘラクレス)』『大友落月記』『神遊の城』『酔象の流儀 朝倉盛衰記』『戦神』『妙麟』『計策師 甲駿相三国同盟異聞』がある。