■No.3 半神にして絶世の美姫──鶴姫<その2>
文字数 1,450文字
『立花三将伝』で戦国の世を駆け抜けた若き将士たちの熱き友情と生きざまを描いた赤神 諒氏。今作『空貝 村上水軍の神姫』では、「瀬戸内のジャンヌ・ダルク」の異名をとる伝説的女武将・鶴姫と、同族ながらも主家への復讐を企む若き軍師・越智安房が、日本最強と言われた大内海軍とともに戦い、衝突しながらも惹かれあっていく様がドラマチックに描かれています。壮大な「歴史恋愛小説」の裏話を、赤神諒氏が語ります!
鶴姫には他の戦国女性にはない、ひとつの特徴があります。
――神に仕える巫女、です。
美しいだけでなく、大山祇神社の神官の姫として、
鶴姫には神性を持たせようと決めていました。
実際〈大祝〉は現人神と、軍事を預かる〈陣代〉は半神とされていました。
戦闘能力で男より優れ、男勝りで勝気なのに、鶴姫は純潔で清純な少女です。
わりと常識がありません。少し抜けているところもあります。
容姿は、絶世の美姫です。
本の装画では、読者の想像力を限定しない、方向づけしないように、あえて主人公の顔を描かないことも多いようです。
ですがこの作品は、正面から主人公を描いていただきたかった。
私はかなりのアート好きで、真面目に勘定してみると1年で数十回、こっそり美術館や博物館に行っている人間です。
(ウィルス禍以後は、無理ですけど)
そのため、自分は下手糞なくせに、絵に好き嫌いがあるんです。すみません。
素人ながら思いますに、人の顔を描くのは極めて難しい。
プロでも、風景画は描けても、人の顔を描けない人がいます。
そこで、意中の素晴らしいアーティストにお願い申し上げました。
ずばりAto Fujihara先生。
日本女性の美をいかに表現するか、ひたすら追求した来られた方です。
――もしかして何か、文句ありますか?
と言われているような、まさにイメージ通りの美姫を描いていただきました。
(もちろんFujihara先生はかように下品なことは微塵も仰っていません)
この場をお借りして、改めて感謝申し上げます。
ところで、鶴姫は実在が疑われている人物です。
『大祝家記』に記されていて、それを元に鶴姫伝説が書かれたとされています。
でも、大祝家記が紛失してしまったのです……。
ついこの間までは、「山本勘助も実在しなかった」と言われていましたし、本当のところは分かりませんよね。
ひょっこり大祝家記が出てくれば、『空貝』も大ヒットするはずなのですが……。
――出てこい、大祝家記!
あ、上から目線で、生意気でした。面目ございません。
――どうかぜひ、出ていらしてください、大祝家記さん。
ちなみに本作では、大祝家の舞台裏での凄絶な争いをまことしやかに書いてありますが、すべからくフィクションです。
おそらく一族の皆様は、平和にお暮らしだったのであろうと拝察いたしております。
嘘ばっかり書いて、申し訳ありません。

赤神 諒(アカガミ リョウ)
1972年京都府生まれ。同志社大学文学部卒業、東京大学大学院法学政治学研究科修士課程修了、上智大学大学院法学研究科博士後期課程単位取得退学。私立大学教授、法学博士、弁護士。2017年、「義と愛と」(『大友二階崩れ』に改題)で第9回日経小説大賞を受賞し作家デビュー。他の著書に『大友の聖将(ヘラクレス)』『大友落月記』『神遊の城』『酔象の流儀 朝倉盛衰記』『戦神』『妙麟』『計策師 甲駿相三国同盟異聞』がある。