■No.7 鬼鯱 ──ありえないほど強すぎる水将
文字数 1,724文字

鶴姫の武勇は村上水軍最強で、誰も勝てません。
本作品の見所は海戦ですが、戦ばかりでは面白味に欠けますよね。
やはりとことん楽しんでいただくためには、個別戦闘の場面も欲しい。
そこで敵に、鶴姫より強い男を配置しました。
小原中務丞という武将です。
彼は、これまでの私の小説で、おそらく最も強い男だと思います。
何しろ素手でめちゃくちゃ強いのですから。
超能力とか魔法が使えない限り、生身でこれ以上強い男はいないんじゃないかと言うくらい、強調しました。
いくらなんでも強すぎるので、たぶん、こんな人いないと思います。すみません。
往年の名作で言えば、『北斗の拳』のラオウがモデルですね。
最初はここまで強くするつもりはなかったのですが、物語をもっと面白くしようと書いているうちに、手のつけられないほど強くなってしまいました。
伝説では、鶴姫は遊女の姿をして、油断した小原中務丞に近づき、討ち取ります。
実際には、暗殺は簡単でないでしょうが、古今東西ままある話ですよね。
ですが、現代読者向けの歴史エンタメ小説として、読者の立場で考えると、そのままでは物足りない気がしました。
もちろん遊女の設定は生かしましたが、鶴姫は失敗するんです。
鶴姫は普通の男よりも数段強いけれども、やはり女性なので、力は弱い。
化け物みたいに強い鬼鯱と戦いますが、いかに鶴姫でも、まるで歯が立たない。
絶体絶命のピンチに現れるのが、安成です。
圧倒的な強者を前に、ふたりは協力して戦い抜く。
その過程で、もちろん絆が深まってしまうわけですね。
『空貝』における鬼鯱のキャラについては全くの創作ですが、小原中務丞隆言は、実在の人物です。伝説では鶴姫に殺害されましたが、実はその後も生存していた記録もあるようです。
ただ、同姓同名の人物は歴史的に結構いますので、物語では身内を登場させて、いちおう辻褄を合わせました。
対鬼鯱戦は前半最大のクライマックスです。
手に汗握る展開、お楽しみくださいませ。

■主な登場人物
《伊予水軍》
大祝鶴姫(おおほうり・つるひめ) 大祝家絶世の美姫。陣代で台城主。十六歳。
越智安成 大祝家直属の大三島水軍の軍師。二十歳。
ウツボ 安成の腹心。
村上通康 来島村上水軍の頭領。二十三歳。
村上尚吉 因島村上水軍の頭領。
鮫之介 大祝家に仕える水将。鶴姫の武芸の師。
松 鶴姫の乳母にして、侍女。
大祝安舎 第三十二代大祝。大祝家当主。鶴姫の長兄。
大祝安房 陣代。鶴姫の次兄。
越智通重 大祝家臣。安成の舅。小海城主。
磯 安成の妻。通重の養女。
シャチ 来島村上水軍に身を寄せる少年。
《大内水軍》
小原中務丞 剛勇無双の猛将。別名、鬼鯱。
白井縫殿助 大内水軍きっての謀将。
赤神 諒(アカガミ リョウ)
1972年京都府生まれ。同志社大学文学部卒業、東京大学大学院法学政治学研究科修士課程修了、上智大学大学院法学研究科博士後期課程単位取得退学。私立大学教授、法学博士、弁護士。2017年、「義と愛と」(『大友二階崩れ』に改題)で第9回日経小説大賞を受賞し作家デビュー。他の著書に『大友の聖将(ヘラクレス)』『大友落月記』『神遊の城』『酔象の流儀 朝倉盛衰記』『戦神』『妙麟』『計策師 甲駿相三国同盟異聞』がある。