■No.6 史上、最も不本意な恋
文字数 1,088文字

悲恋は、不本位な恋であるほうが、いい。
これでもかと思うほど〈不本意な恋〉を描きたいと思いました。
恋などする気は全くなかったのに、始まってしまった恋。
恋してはいけない相手に、してしまった恋。
恋などしている場合ではないのに、のめり込んでしまった恋。
いけない、抜け出そうとあがいたのに、引き返せなかった恋。
これまでの自分の人生をすべて否定してしまうような恋。
双方にとって、時も、相手も、TPO、何もかも適切でない恋。
それなのに、その恋を選び、最後まで貫いてしまう……。
以上のすべての条件を満たす恋を描いたつもりです。
好もしい男女が好き合って、相思相愛になる。
結ばれるはずなのに、ある事情で結ばれずに終わる。
これも、十分に悲恋です。
でも出だしが、悲恋としてはまだ不十分な気がします。
本作品では、絶対に恋したくない、すべきでない男女からスタートさせました。
恋を夢見る清純な少女が、一族の命を狙う悪党に恋してしまう。
冷酷非情なはずの悪党が、命を奪うはずの美少女に恋してしまう。
絶対に成立しないはずの恋。
ですが舞台は戦国、命のやり取りの中で、二人はどうしようもなく、固い絆で結ばれていく。
-100℃から始まって、100℃へと燃え上がって行く恋を、海戦を交えながら、ドラマチックに描いたつもりです。
最低最悪の恋が、最後に最高の恋として花開いて、散る。
恋は100°のまま、永遠に燃え尽きる。
『空貝』はそんな恋物語です。

赤神 諒(アカガミ リョウ)
1972年京都府生まれ。同志社大学文学部卒業、東京大学大学院法学政治学研究科修士課程修了、上智大学大学院法学研究科博士後期課程単位取得退学。私立大学教授、法学博士、弁護士。2017年、「義と愛と」(『大友二階崩れ』に改題)で第9回日経小説大賞を受賞し作家デビュー。他の著書に『大友の聖将(ヘラクレス)』『大友落月記』『神遊の城』『酔象の流儀 朝倉盛衰記』『戦神』『妙麟』『計策師 甲駿相三国同盟異聞』がある。