■No.9 鶴姫の鎧について

文字数 1,838文字

◆装画:Ato fujihara
『立花三将伝』で戦国の世を駆け抜けた若き将士たちの熱き友情と生きざまを描いた赤神 諒氏。今作『空貝 村上水軍の神姫』では、「瀬戸内のジャンヌ・ダルク」の異名をとる伝説的女武将・鶴姫と、同族ながらも主家への復讐を企む若き軍師・越智安房が、日本最強と言われた大内海軍とともに戦い、衝突しながらも惹かれあっていく様がドラマチックに描かれています。壮大な「歴史恋愛小説」の裏話を、赤神諒氏が語ります!

鶴姫を扱う物語で必ず登場するのが、紺色の鎧です。

大山祇神社に奉納されている<紺糸裾素懸威胴丸>ですね。

これは鶴姫の鎧と伝わっています。

戦前は国宝だったのですが、国宝が多すぎたので戦後、重要文化財とされました。

──女性専用の鎧です!

そう言い切られると、なるほど、と思ってしまいます。

でも、別に女性用ではないぜ、という批判もあります。

私は歴史家ではなく、エンタメ歴史小説を書いていますので、小説にとって面白い説なら、迷わずそちらを選びます。

この鎧をどうやって鶴姫に着せるのが、一番面白いか。

考えた末、安成に作らせることにしました。

彼が鶴姫に鎧を着せるシーンは、結構好きなんですよね。

もしも彼が現代を生きていれば、服飾デザイナーになっていたでしょう。

戦国時代なので、現代と違って好きな職業には着きにくいですが、もしもこの人物が現代を生きていたらどんな職業に向いているだろうと考えながらキャラを設定して、小説を書いています。

ちなみに『空貝』で、鶴姫は巫女姿で戦いますが、これも私の創作です。

神に仕える巫女が似合わぬ剣を持ち、返り血で巫女装束を染める――

エンタメとしての映像も、意識しました。

(そこにいらっしゃる監督、ぜひアニメ化を!)

物語の中でも彼女に言わせていますように、身を守る、国を守るためとはいえ、鶴姫もまた罪深い人間であり、因果応報を免れない宿命を象徴的に表したいとの意図もありました。 

ところで、似た題材などを扱う場合、先行作品を読むか、読まないか。

良い作品であればあるほど、影響を受けすぎる可能性があります。無意識のうちに表現した結果、剽窃や盗用などに当たるとされるのが怖いという理由で、私はむしろ読まないようにしています。

(ちょうど時間もないので、私にとっては好都合なのですが。)

ちなみに、鶴姫には優れた漫画作品があります。

漫画家は小説家+画家というものすごい方たちなので、元々尊敬していますが、ジャンルが違うので大丈夫だろうと考え、鎧も含めてどのように描かれているのか参考のために拝読しました。

面白かったです!

私の作品と同じで、隠れた名作です(←おい)。

『空貝』と併せてお楽しみ下さい。

★樹齢2600年と伝わる<乎知命御手植の楠(おちのみことおてうえのくすのき)>



 



   

■主な登場人物

《伊予水軍》

大祝鶴姫(おおほうり・つるひめ)         大祝家絶世の美姫。陣代で台城主。十六歳。

越智安成             大祝家直属の大三島水軍の軍師。二十歳。

ウツボ       安成の腹心。

村上通康             来島村上水軍の頭領。二十三歳。

村上尚吉             因島村上水軍の頭領。

鮫之介       大祝家に仕える水将。鶴姫の武芸の師。

              鶴姫の乳母にして、侍女。

大祝安舎             第三十二代大祝。大祝家当主。鶴姫の長兄。

大祝安房             陣代。鶴姫の次兄。

越智通重             大祝家臣。安成の舅。小海城主。

              安成の妻。通重の養女。

シャチ       来島村上水軍に身を寄せる少年。

《大内水軍》

小原中務丞         剛勇無双の猛将。別名、鬼鯱。

白井縫殿助         大内水軍きっての謀将。

赤神 諒(アカガミ リョウ)

1972年京都府生まれ。同志社大学文学部卒業、東京大学大学院法学政治学研究科修士課程修了、上智大学大学院法学研究科博士後期課程単位取得退学。私立大学教授、法学博士、弁護士。2017年、「義と愛と」(『大友二階崩れ』に改題)で第9回日経小説大賞を受賞し作家デビュー。他の著書に『大友の聖将(ヘラクレス)』『大友落月記『神遊の城』酔象の流儀 朝倉盛衰記『戦神』妙麟』『計策師 甲駿相三国同盟異聞』がある。

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