■No.4 不世出の天才軍師──越智安成<その1>

文字数 1,771文字

◆装画:Ato fujihara
『立花三将伝』で戦国の世を駆け抜けた若き将士たちの熱き友情と生きざまを描いた赤神 諒氏。今作『空貝 村上水軍の神姫』では、「瀬戸内のジャンヌ・ダルク」の異名をとる伝説的女武将・鶴姫と、同族ながらも主家への復讐を企む若き軍師・越智安房が、日本最強と言われた大内海軍とともに戦い、衝突しながらも惹かれあっていく様がドラマチックに描かれています。壮大な「歴史恋愛小説」の裏話を、赤神諒氏が語ります!

主人公の一人であるヒーロー、越智安成

〈鶴姫伝説〉では一族の若者であり、鶴姫の家臣です。

彼はやがて鶴姫の恋人となり、戦場で活躍します。

最後は火計を使って善戦するものの、衆寡敵せず、鶴姫より先に戦死します。


年齢は鶴姫より四歳年上にしました。

恋など十分に知っていて、鶴姫を軽く手玉に取っている(つもり)というストーリー展開に合わせた設定です。 

鶴姫が十八歳で死ぬ設定は変えていないのですが、あまりに優れた人物として安成を描いているため、物語にもっともらしさを出すためでもありました。


安成も史実はよくわかっていません。

もしかしたら、彼も実在しなかったのかも知れません。

でも現地の大三島では、鶴姫と川を隔てて向かい合う形で、ナイスガイの像が建てられていますよ。


強い男と賢い女〉のコンビは、小説でも、現実にも、よくあるパターンですよね。

戦国時代の女性で名を残している人は、少ないながら、います。

でも、戦にも強かった女性は数えるほどです。 

特に〈戦国〉という時代の制約からすれば、大作家ならともかく、普通の作家は実在の女性を勝手に強くもできません。ならば、鶴姫の〈強い女性〉という設定を使わなきゃ、絶対に損ですよね。


〈強い女と強い男〉の恋。

そ、そうですか……。

お幸せにとは思いますが、小説として、あまり読みたくない気がします。

そこで本作品では〈強い女と賢い男〉のカップルにしました。


安成は物語の進行にも関わる〈ある事情〉で、そこそこしか剣を使えません。

鶴姫と剣で戦えば、負けます。

というか、鶴姫にはほとんど誰も勝てませんけど。


そのぶん『空貝』では、安成の智謀を前面に押し出しています。

常に絶望的な状況下で、味方を勝利へと導く天才軍師です。


小説で面白いのは、主人公なりが最も得意とするところで敗北するという皮肉めいた展開かも知れません。

彼は智謀の限りを尽くして、完全犯罪のように悪事を着々と進めていくのですが、これが最終的には裏目に出るわけですね。

『空貝』は自分で作った罠ゆえに、自分も滅んでゆく知者の悲劇でもあります。

■主な登場人物

《伊予水軍》

大祝鶴姫(おおほうり・つるひめ)         大祝家絶世の美姫。陣代で台城主。十六歳。

越智安成             大祝家直属の大三島水軍の軍師。二十歳。

ウツボ       安成の腹心。

村上通康             来島村上水軍の頭領。二十三歳。

村上尚吉             因島村上水軍の頭領。

鮫之介       大祝家に仕える水将。鶴姫の武芸の師。

              鶴姫の乳母にして、侍女。

大祝安舎             第三十二代大祝。大祝家当主。鶴姫の長兄。

大祝安房             陣代。鶴姫の次兄。

越智通重             大祝家臣。安成の舅。小海城主。

              安成の妻。通重の養女。

シャチ       来島村上水軍に身を寄せる少年。

《大内水軍》

小原中務丞         剛勇無双の猛将。別名、鬼鯱。

白井縫殿助         大内水軍きっての謀将。

☆<安成像>とその肩に馴れ馴れしく手を置く著者

赤神 諒(アカガミ リョウ)

1972年京都府生まれ。同志社大学文学部卒業、東京大学大学院法学政治学研究科修士課程修了、上智大学大学院法学研究科博士後期課程単位取得退学。私立大学教授、法学博士、弁護士。2017年、「義と愛と」(『大友二階崩れ』に改題)で第9回日経小説大賞を受賞し作家デビュー。他の著書に『大友の聖将(ヘラクレス)』『大友落月記『神遊の城』酔象の流儀 朝倉盛衰記『戦神』妙麟』『計策師 甲駿相三国同盟異聞』がある。

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