■No.8 『空貝』における「距離」

文字数 1,125文字

◆装画:Ato fujihara
『立花三将伝』で戦国の世を駆け抜けた若き将士たちの熱き友情と生きざまを描いた赤神 諒氏。今作『空貝 村上水軍の神姫』では、「瀬戸内のジャンヌ・ダルク」の異名をとる伝説的女武将・鶴姫と、同族ながらも主家への復讐を企む若き軍師・越智安房が、日本最強と言われた大内海軍とともに戦い、衝突しながらも惹かれあっていく様がドラマチックに描かれています。壮大な「歴史恋愛小説」の裏話を、赤神諒氏が語ります!

この作品では、距離を意識しました。

宿敵同士として、〈心の距離〉も最大限から始めました。

ここでは物理的な距離のお話です。

伝説では、恋人となった安成が、火計を用いた海戦で最期を迎えます。



が、どんな戦だったのか、詳しくは描かれていません。


安成は並ぶものなき知将です。

天才軍師として数々の逆境を乗り越え、味方を勝利へ導いてきました。

その彼が、最後だけ、

――今回は相手が上手でした……ま、参りました!

と、負けて死ぬのでは、作者も読者も、納得できません。


負けるのが分かっているのに出陣して、その通り負けて死ぬのも、彼らしくありません。

そうではなく、鶴姫も安成も、

完全な勝利を確信して、出陣する。

しかし、(偶然ではない)予期せぬ事態によって戦況が急変し……


そりゃ負けても仕方ないよなと、思っていただけるように、

工夫しました。

でも、それだけでは足りないんです。

悲恋物語ですから、彼が死すべき理由もまた、恋でなければならない。

ここが難しかったですね。


天下の奇才は、あらゆる可能性を検討した結果、

鶴姫を救うためには、自己犠牲しかないと結論づけます。

それが<距離>とそれに伴う<時間>でした。

現代社会なら携帯電話一本で、遠く離れていても、すぐに連絡が取れます。

ところが舞台は、戦国時代の夜の海。


思わぬ事態の推移で敗北を確信した安成。

このままでは、鶴姫が敗死する。

遠く離れた船団にいる鶴姫に危機を知らせねばなりません。


安成はどうやって鶴姫を救うのか――。

最後のクライマックス、どうぞお楽しみください。 

★大三島の最高峰<鷲ヶ頭山>(旧神野山)

赤神 諒(アカガミ リョウ)

1972年京都府生まれ。同志社大学文学部卒業、東京大学大学院法学政治学研究科修士課程修了、上智大学大学院法学研究科博士後期課程単位取得退学。私立大学教授、法学博士、弁護士。2017年、「義と愛と」(『大友二階崩れ』に改題)で第9回日経小説大賞を受賞し作家デビュー。他の著書に『大友の聖将(ヘラクレス)』『大友落月記『神遊の城』酔象の流儀 朝倉盛衰記『戦神』妙麟』『計策師 甲駿相三国同盟異聞』がある。

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