■No.11 シャチ ※ネタバレ注意
文字数 1,519文字
『空貝』は、鶴姫伝説をベースとする以上、悲恋の結末は確定しています。
ですが、それで終わると、寂しいだけの悲劇になります。
カタルシスが足りないかなと考えました。
何か前向きな、上昇気流の終わり方ができないか。
未来のある子供は、その存在だけで、物語が明るくなりますね。
物語の冒頭では、逆に、幼い子供が無辜の命を奪われる姿を描くことで、戦国時代のやるせない不幸を描いてもいます。
名作のエンタメにあるように、子供は特別のキャラです。
最終章では、若くして老成したような安成を、第三者の視点で描く必要性もありました。
でも、登場人物として出す以上は、中途半端な役割ではなく、重要な役割を担う人物として設定したい。
後に英雄となる人物の幼い頃として描けば、以上の要求を満たします。
この時代の瀬戸内で、最も有名な人物は誰か。
それを鶴姫たちと結びつければいい。
こうして、シャチが生まれました。
後の村上〇〇ですね。彼の前半生はよくわからない。
有名な厳島合戦での役割さえ、実ははっきりしません。
とすれば、書きたい放題ですね。
本当に、皆さん、勝手に書いています(笑)。
彼が陶晴賢ではなく、毛利元就に味方して勝利させたという話は有名ですね。
でもそれはなぜなのか、謎に包まれています。
歴史ミステリーに対する小説なりの答えでもあります。
このラストを思いついたときは快哉を叫びましたね。
なかなかよい終わり方だと自画自賛しています。
■主な登場人物
《伊予水軍》
大祝鶴姫(おおほうり・つるひめ) 大祝家絶世の美姫。陣代で台城主。十六歳。
越智安成 大祝家直属の大三島水軍の軍師。二十歳。
ウツボ 安成の腹心。
村上通康 来島村上水軍の頭領。二十三歳。
村上尚吉 因島村上水軍の頭領。
鮫之介 大祝家に仕える水将。鶴姫の武芸の師。
松 鶴姫の乳母にして、侍女。
大祝安舎 第三十二代大祝。大祝家当主。鶴姫の長兄。
大祝安房 陣代。鶴姫の次兄。
越智通重 大祝家臣。安成の舅。小海城主。
磯 安成の妻。通重の養女。
シャチ 来島村上水軍に身を寄せる少年。
《大内水軍》
小原中務丞 剛勇無双の猛将。別名、鬼鯱。
白井縫殿助 大内水軍きっての謀将。
赤神 諒(アカガミ リョウ)
1972年京都府生まれ。同志社大学文学部卒業、東京大学大学院法学政治学研究科修士課程修了、上智大学大学院法学研究科博士後期課程単位取得退学。私立大学教授、法学博士、弁護士。2017年、「義と愛と」(『大友二階崩れ』に改題)で第9回日経小説大賞を受賞し作家デビュー。他の著書に『大友の聖将(ヘラクレス)』『大友落月記』『神遊の城』『酔象の流儀 朝倉盛衰記』『戦神』『妙麟』『計策師 甲駿相三国同盟異聞』がある。