■No.1  戦国版・ロミオとジュリエット

文字数 1,749文字

◆装画:Ato fujihara

『立花三将伝』で戦国の世を駆け抜けた若き将士たちの熱き友情と生きざまを描いた赤神 諒氏。今作『空貝 村上水軍の神姫』では、「瀬戸内のジャンヌ・ダルク」の異名をとる伝説的女武将・鶴姫と、同族ながらも主家への復讐を企む若き軍師・越智安房が、日本最強と言われた大内海軍とともに戦い、衝突しながらも惹かれあっていく様がドラマチックに描かれています。壮大な「歴史恋愛小説」の裏話を、赤神諒氏が語ります!

『空貝は、シェイクスピアのあまりにも有名な戯曲『ロミオとジュリエット』を範としています。


<恋し合う若い男女は、仇敵同士の家に生まれ落ちる>

<家同士の事情で、二人の恋は成就せず、男女は死ぬ> 

おなじみの筋立てですね。

あくまで私の創作ですが、『空貝』は仇敵である大祝の〈南家〉と〈北家〉に生まれ落ちた若い男女の恋を描く悲劇です。

もともとの〈鶴姫伝説〉は、直球の悲恋物語です。

私が勝手にロミジュリ設定にしました。


ロミジュリに対する一つの批判は<登場人物に何も非がない>点です。

ロミオも、ジュリエットも、何も悪くありません。

ふたりは徹頭徹尾、気の毒な被害者です。

同じシェイクスピアでも〈四大悲劇〉と違うのはこの点ですね。


すでにある名作を(せめて)乗り越え(ようとす)る。

これが、後世の作家の務めだと思います。

『空貝』では、ヒーローの安成をまず極悪人の加害者として登場させました。 

ロミオは爽やかな好男子ですが、安成はいつも斜に構えています。

謎だらけの暗い過去を引きずり、常に影を帯びた、陰険な策謀家です。

<男は、女を殺すために現れる>

本来なら、決して恋が成立しないはずの出発点から始めました。

なのに、恋に落ちてしまう。

殺そうとしていた女性を、最後には命を懸けて守ろうとする。

この180度転換とそこへ至る過程を描きたかったのです。



 ロミジュリに対するもう一つの批判は

<二人の悲恋が偶然に左右されている>点です。



世界では、うなるほど偶然がありますよね。

たくさんの人がいる大都会で、ばったり知人と出くわす偶然。

実はいくらでもある話です。

でも、少なくとも現代の小説で、偶然は1ミリも許されません。

(1ミリくらいなら、いいかも……)

『空貝』でも、ほぼ必然にしてあるはずです。

天候なども、実際にありがちなものや、自然現象として地元で根拠のある天候しか設定していません。



 以上の2点を意識しつつ、戦国版ロミジュリを現代エンタメ戦国小説として描いた作品が、『空貝』なのです。

☆『空貝』の舞台となる大三島の大山祇神社

■主な登場人物

《伊予水軍》

大祝鶴姫(おおほうり・つるひめ)         大祝家絶世の美姫。陣代で台城主。十六歳。

越智安成             大祝家直属の大三島水軍の軍師。二十歳。

ウツボ       安成の腹心。

村上通康             来島村上水軍の頭領。二十三歳。

村上尚吉             因島村上水軍の頭領。

鮫之介       大祝家に仕える水将。鶴姫の武芸の師。

              鶴姫の乳母にして、侍女。

大祝安舎             第三十二代大祝。大祝家当主。鶴姫の長兄。

大祝安房             陣代。鶴姫の次兄。

越智通重             大祝家臣。安成の舅。小海城主。

              安成の妻。通重の養女。

シャチ       来島村上水軍に身を寄せる少年。



《大内水軍》

小原中務丞         剛勇無双の猛将。別名、鬼鯱。

白井縫殿助         大内水軍きっての謀将。

赤神 諒(アカガミ リョウ)

1972年京都府生まれ。同志社大学文学部卒業、東京大学大学院法学政治学研究科修士課程修了、上智大学大学院法学研究科博士後期課程単位取得退学。私立大学教授、法学博士、弁護士。2017年、「義と愛と」(『大友二階崩れ』に改題)で第9回日経小説大賞を受賞し作家デビュー。他の著書に『大友の聖将(ヘラクレス)』『大友落月記『神遊の城』酔象の流儀 朝倉盛衰記『戦神』妙麟』『計策師 甲駿相三国同盟異聞』がある。

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