■No.10 作品の色、テーマ曲、ちょっとした仕掛け
文字数 1,290文字

この小説を色にたとえると、<青>です。
鶴姫の伝説の鎧は<紺>ですし、舞台となる瀬戸内の海も様々な藍色をしています。
『空貝』とは貝殻の意味ですが、「空」もやはり青を基調とした色です。
主人公の男女は、青春時代を完全燃焼して、生を終えます。
実は私は小説を執筆するとき、デフォルトの白地に黒字ではなく、背景を薄い色にしています。
目にもやさしいと聞いたことがあり、たいてい、そうしています。
『空貝』を薄い青の背景で書いたことは、言うまでもありません。(←だから、どうした)
私は小説ごとにテーマ曲を設定しています。
『空貝』のテーマ曲、気になりますよね。(←別に)
ずばり、クリス・ハートさんの 「I love you」です。
現代的な文脈で失恋を歌い上げた名曲バラードですが、曲調が『空貝』にぴったりなんです。
テーマ曲は、主要テーマ曲1、2に加えて、小説1作につき10曲くらいの組曲になっていまして、かなり行き当たりばったりに設定しているのですが、実は「a whiter shade of pale(青い影)」も含まれていたことに、このエッセイを書きながら気づきました。
もちろん偶然なのですが、小説を書いていると、しばしばこういうことがあります。
ところで、この小説では〈ちょっとした遊び〉を入れています。
作品の中で、登場人物が当該作品に言及するということは、本来ありえないはずですよね。
例えば鶴姫の生きていた時代には、『空貝』という本がないわけですから、彼女が僕の本を読むことは絶対にありえません。
私は大学時代、文学部だったのですが、「物語の自己言及性」について研究している素敵なフランス文学者がおられました。
一度やってみたいなと思って、ささやかな試みですか物語に入れてあります。
よろしければ、探してみてください。
以上、「だから、どうした?」と問い返されても、「すみません」としか返答しようのない、ささやかな執筆エピソードでした。
赤神 諒(アカガミ リョウ)
1972年京都府生まれ。同志社大学文学部卒業、東京大学大学院法学政治学研究科修士課程修了、上智大学大学院法学研究科博士後期課程単位取得退学。私立大学教授、法学博士、弁護士。2017年、「義と愛と」(『大友二階崩れ』に改題)で第9回日経小説大賞を受賞し作家デビュー。他の著書に『大友の聖将(ヘラクレス)』『大友落月記』『神遊の城』『酔象の流儀 朝倉盛衰記』『戦神』『妙麟』『計策師 甲駿相三国同盟異聞』がある。