■No.10 作品の色、テーマ曲、ちょっとした仕掛け

文字数 1,290文字

◆装画:Ato fujihara
『立花三将伝』で戦国の世を駆け抜けた若き将士たちの熱き友情と生きざまを描いた赤神 諒氏。今作『空貝 村上水軍の神姫』では、「瀬戸内のジャンヌ・ダルク」の異名をとる伝説的女武将・鶴姫と、同族ながらも主家への復讐を企む若き軍師・越智安房が、日本最強と言われた大内海軍とともに戦い、衝突しながらも惹かれあっていく様がドラマチックに描かれています。壮大な「歴史恋愛小説」の裏話を、赤神諒氏が語ります!

この小説を色にたとえると、<青>です。

鶴姫の伝説の鎧は<紺>ですし、舞台となる瀬戸内の海も様々な藍色をしています。

『空貝』とは貝殻の意味ですが、「空」もやはり青を基調とした色です。

主人公の男女は、青春時代を完全燃焼して、生を終えます。

実は私は小説を執筆するとき、デフォルトの白地に黒字ではなく、背景を薄い色にしています。

目にもやさしいと聞いたことがあり、たいてい、そうしています。

『空貝』を薄い青の背景で書いたことは、言うまでもありません。(←だから、どうした)

私は小説ごとにテーマ曲を設定しています。

『空貝』のテーマ曲、気になりますよね。(←別に)

ずばり、クリス・ハートさんの 「I love you」です。

現代的な文脈で失恋を歌い上げた名曲バラードですが、曲調が『空貝』にぴったりなんです。

テーマ曲は、主要テーマ曲1、2に加えて、小説1作につき10曲くらいの組曲になっていまして、かなり行き当たりばったりに設定しているのですが、実は「a whiter shade of pale(青い影)」も含まれていたことに、このエッセイを書きながら気づきました。

もちろん偶然なのですが、小説を書いていると、しばしばこういうことがあります。

ところで、この小説では〈ちょっとした遊び〉を入れています。

作品の中で、登場人物が当該作品に言及するということは、本来ありえないはずですよね。

例えば鶴姫の生きていた時代には、『空貝』という本がないわけですから、彼女が僕の本を読むことは絶対にありえません。

私は大学時代、文学部だったのですが、「物語の自己言及性」について研究している素敵なフランス文学者がおられました。

一度やってみたいなと思って、ささやかな試みですか物語に入れてあります。

よろしければ、探してみてください。 

以上、「だから、どうした?」と問い返されても、「すみません」としか返答しようのない、ささやかな執筆エピソードでした。

★物語にもちらりと登場する<瓢箪島>

赤神 諒(アカガミ リョウ)

1972年京都府生まれ。同志社大学文学部卒業、東京大学大学院法学政治学研究科修士課程修了、上智大学大学院法学研究科博士後期課程単位取得退学。私立大学教授、法学博士、弁護士。2017年、「義と愛と」(『大友二階崩れ』に改題)で第9回日経小説大賞を受賞し作家デビュー。他の著書に『大友の聖将(ヘラクレス)』『大友落月記『神遊の城』酔象の流儀 朝倉盛衰記『戦神』妙麟』『計策師 甲駿相三国同盟異聞』がある。

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