ゾフィー上田の「自分では出会わない本について語る会」第七回
文字数 2,710文字
お笑いファンに絶大な支持を得るコント師・ゾフィー上田航平さんは、読書家としても知られています。
でも、最近ふだんの読書だけでは物足りない様子。。。
そこで当コーナーでは、編集部からご自身では絶対に買わなそうな本をチョイスして、上田さんに読んで語ってもらいます!
〇「クズ芸人」はこれを読め! 極貧でも精一杯笑って乗りきる最強術!!
2022年現在、日本のテレビでは「クズ芸人」と呼ばれる猛者たちが活躍している。「ギャンブルや酒におぼれ借金地獄となった醜態を所得に変換する」というたくましい商売をしている人たちだ。お金がないことがお金になる。こういう生き方を知ると世の中はつくづくメビウスの輪だからとりあえず前にだけは進もうという気持ちになる。ちなみにうちの相方はクズ芸人の借金なんて霞むほどの額の負債を抱えているにも関わらずからきし面白くできないのでひたすら無尽蔵に借金だけが膨らんでいる。これも現実。そんな相方が誰よりも楽しそうに暮らしている。これも現実。さて今回の本は『廃線寸前! 銚子電鉄〜超極貧赤字鉄道の底力〜』。こちらもお金のない鉄道会社のお話。
銚子電鉄は千葉県銚子市にある、わずか6.4キロを走るローカル鉄道だ。この銚子鉄道が、何度も経営難に陥って何度も廃線になりかけるのだが、どんな絶望的な状況でも、不死鳥がごとく蘇る。その蘇り方がクズ芸人同様、最高にタフだ。まずは慢性的な赤字脱却のため、当時大流行していた「およげ!たいやきくん」にあやかってたい焼きの製造販売を行なった。そのたい焼きの売り上げが好調となり、さらに副業に力を入れて「ぬれ煎餅」を販売したところ大ヒット。本業である鉄道業の収益を超えたため鉄道会社なのに「米菓製造業」と登録される。その後も銚子電鉄には横領事件や未曾有の震災や過去最大級の台風や新型コロナウィルスと、次々に厳しい現実が襲いかかってくるのだが、次々と起死回生のアイデアで乗り越えていく。「経営状況がまずいから」と「まずい棒」を販売。「倒産防止」に引っ掛けて銚子電鉄の制帽をモチーフにした和風のケーキ「おとうさんのぼうし」を販売。さらには「銚電神ゴーガッシャー」というヒーローによるアクションショーを企画したり、電車の中をお化け屋敷にしたり演劇やったりプロレスやったり最終的には「カメラを止めるな!」にあやかり「電車を止めるな!」という映画まで撮っている。あきらめず、立ち止まらず。銚子電鉄は、何があっても何をしてでも、絶対に電車を止めようとしない。
実を言うと、私はこの銚子電鉄の竹本社長にお会いしたことがある。私がMCをやっていた映画を紹介する番組にゲストとしてお越し頂き「電車を止めるな!」にまつわるエピソードをお話頂いたのだが、竹本社長がすきあらば自虐ネタをぶっ込んできてスタジオは爆笑だった。竹本社長は元々銚子電鉄の顧問税理士さんだったのだが、当時の社長がご高齢で舵取りが難しくなり、その場しのぎのピンチヒッターとして社長に就任した。人手不足から社長自ら電車の運転免許を取得し「DJ(ドン引きする冗談)列車」としてDJ風にギャグを交えながら観光案内をしているらしい。ここまで徹底してお笑いにされたらこちらも笑わずにはいられない。私は思わず竹本社長に聞いた。「これだけ辛いことがあっても、なんでもやって笑って乗り切る秘訣はあるんですか?独自の人生哲学がおありなんですか?」すると竹本社長はこう言った。「潰れちゃうからやるしかないんです」そうだ。そりゃそうだ。あきらめない理由はあきらめたら終わるからだ。あきらめても終わらないものはあきらめられるけど、あきらめて終わるものは絶対にあきらめることができない。それがあきらめない秘訣だ。
先日お見送り芸人しんいち君が「もしも金持ちが、金ばら撒いてそれを口でキャッチできたらもらえるゲームをやり出したら僕は絶対にやりますよ」と言っていた。そばにいたわらふぢなるお口笛なるおさんも「俺も子供いるから絶対やるわ」と言っていた。ただ私は「性根の腐った金持ちに屈したくない!みんなが必死になって口をパクパクしているのを尻目にパーティ会場から出ていくね!絶対にやらない!」と言い切った。だがそれから数日して今月のお給料が思ったよりも少なくて光熱費等の支払いを考えると貯金残高が絶望的な金額になってしまったことを知ってしまった今、考えはすっかり変わった。しのごの言ってる場合ではない。自分のプライドや信念は生活の前に無力だ。ロケ弁当を颯爽と持ち帰り、ともすれば売れてる後輩にてへぺろでご飯を奢ってもらう。そして目指すはキングオブコント。ハングリーから生まれたハングリー精神で絶対に優勝するという気持ち。優勝したら1000万円。いやさ決勝までいけば出演料がもらえる。溢れ出る闘志。「生きたい生活したい」という生まれ持った欲望に「面白いコントを作りたい」という生まれてから持った欲望が重なれば鬼に金棒である。やるぞ。やるのだ。生きるぞ。そして覚悟を決めた私は、現金ばらまきパーティーがお開きになった深夜2時過ぎ、ひとり金持ちの家のチャイムを鳴らす。「すいません、あれって個別でやってもらえたりとかできます?」
1984年生まれ。神奈川県出身。慶應大法学部卒。2014年にサイトウナオキとゾフィーを結成、2017年、2019年「キングオブコント」ファイナリストとなった。また、ネタ作り担当として、「東京03の好きにさせるかッ!」(NHKラジオ第1)でコント台本を手がけるなど、コンビ内外で幅広く活動している。趣味は読書とサウナ。なお、祖父は神奈川県を中心に展開する書店チェーン店「有隣堂」の副社長を勤めたこともある。