ゾフィー上田の「自分では出会わない本について語る会」第十二回

文字数 2,598文字

お笑いファンに絶大な支持を得るコント師・ゾフィー上田航平さんは、読書家としても知られています。

でも、最近ふだんの読書だけでは物足りない様子。。。


そこで当コーナーでは、編集部からご自身では絶対に買わなそうな本をチョイスして、上田さんに読んで語ってもらいます!

〇定番メニュー隠された好き嫌いの謎を、科学的に分析してみたら・・・?

私はメニューを選ばない。例えば、サイゼリヤならディアボラ風チキン、大戸屋なら大戸屋ランチ、マクドナルドならてりやきマック(ただし、チキンタッタ発売時期は除く)だけを注文する。今日はこれにしよう、がない。これは何度も通っているうちに、意図せずトーナメントが開催され、優勝者が決まり、それ以外をまったく頼まなくなるからである。選ぶ時間が面倒くさい。腹減る。美味しいのすぐ食べたい。スティーブジョブズが、常にタートルネックにジーンズで、服を選ぶ時間を合理的に削っていたという話は有名だが、要は面倒くさいだけだと思う。ちなみに私も服は、常にパーカーにジーンズ。雑魚ジョブズとしては服を選んで買って並べてまた選んで着ると思うと気が遠くなる。当然自炊もしない。食材を買って運んで洗って切って煮て焼いて盛って運んで座って食べる、だなんて。毎日料理を作れる人はそれだけで全世界の雑魚ジョブズから称賛されているに違いない。今回届いた本は「一晩置いたカレーはなぜおいしいのか」。背表紙には「料理や食事が楽しくなる「おいしさの秘密」をご賞味あれ」と書かれている。料理のレパートリー3の男がページを開く。


の本は「一晩置いたカレーはなぜおいしいのか」という章をはじめとして「どうしてみんなカレーライスが好きなのか」など、料理にまつわる謎に迫っている。たしかにカレーが嫌いな子供を見たことがない。昔、私が小学校の頃、カレーを食べた子供がサッカーのラモス瑠偉選手になるCMがあった。あれを見た同級生が、誰かがカレーを食べるたび「ラモスになるぞ!」と騒ぎまくるので学級会で問題になった。その子が泣きながら「もう二度とラモスって言いません!」と謝っていた。幼いながらに「ラモスは言っていいんじゃないか?」と思った。あの子はもうきっと大人だろうけど、カレーを食べているだろうか。Jリーグカレー食べたい。サッカー詳しくないけど、Jリーグカレー好き。Jリーグチップスも。


この本は、カレーライスだけではなく、お好み焼きやお寿司やフルーツパフェなど、身近な料理の疑問を科学的に解決してくれる。なかでも特に気になったのは、チャーハンだ。お笑いを始めたばかりの頃、私は友達の芸人と3人で暮らしていた。そのうちの一人とはバイト先も一緒だった。夜勤から朝8時に帰宅すると、とにかく腹が減っている。腹いっぱい食べてから寝たい。そこで我々が考えたのがチャーハンだ。米はそれぞれの実家から送られてきたので、ソーセージとネギと卵を買って帰り朝から作る。とにかくスピードが勝負だ。家に帰って靴を脱ぐや否や、卵を割ってかき混ぜる。ネギは超適当に切って、ソーセージは手でちぎって、炊いておいたお米にぶち込んで、はいできあがり。青春の早い安い美味い。それからは幾度となくスピードの効率化と、ピーマン入れたりたまねぎ入れたり美味しさの開発に努めたが、そもそも誰かが実家から持って来た胡散臭い電気コンロが中火しか出来ていないことが判明し、いつしかチャーハンの限界にぶちあたり開発部は廃部になった。


そんなチャーハンの章には「グリンピースが嫌われる理由」という項目があった。「カレーが嫌い」と同じくらい「グリーンピースが好き」がいない。開発部でも我が家のチャーハンにグリーンピースを入れてみようという提案はなかった。簡単に言ってしまえば、グリーンピースの匂いの基となる、豆に含まれる脂質が分解されて生じるヘキサナールという物質が原因だということ。そしてこのグリーンピースの臭みは、長く茹でると減少する、とのこと。しかしここからこの本は、グリーンピースの成り立ちへと目を向ける。エンドウ豆を英語ではピーと呼ぶ。つまり、グリーンピースとは「エンドウの未熟な豆」のことである。スイートピーが「かわいいエンドウ」という意味であるように、エンドウも劣らず美しい花を咲かせるが、なんと花びらが虫を拒むような構造になっているらしい。本来、虫や鳥に花粉を運んでもらうために美しく咲いている花が、一体どうして?これでは、呼び込みをやっているのに入り口が封鎖されているキャバクラである。鳥おじさんや虫おじさんは完全にポカンである。実は、エンドウは、野菜として優秀な性質を、変わることなく子々孫々伝えていくために、人間によって、自分の花粉で受粉して種子が作れるように選別された個体だったのである。ちなみにあのメンデルが「遺伝の法則」を発見したのもエンドウ。エンドウが自殖によって次の世代を作るという単純な遺伝様式を示していたから発見できたというわけだ。すべては人間のために。こんなにも人間の生活に尽くしてくれたエンドウの若い頃、グリーンピースを毛嫌いするとは失礼な話である。これから感謝と敬意を持って前のめりに食べようではないか。シューマイのグリーンピースもね。そういやシュウマイってなんでグリーンピース乗ってるんだろ? ググる。「イチゴのショートケーキのように見立てた」「給食を作る際に、数を把握しやすいように目印として乗せた」などの諸説を見つけた。うん。完全にグリーンピースはなめられている。きっといつかグリーンジャイアントが現れて人類に正義の鉄槌を下ろすだろう。あ。グリーンジャイアントはスイートコーンか。あ、すいません。あぁ。

上田航平(ウエダコウヘイ)
1984年生まれ。神奈川県出身。慶應大法学部卒。2014年にサイトウナオキとゾフィーを結成、2017年、2019年「キングオブコント」ファイナリストとなった。また、ネタ作り担当として、「東京03の好きにさせるかッ!」(NHKラジオ第1)でコント台本を手がけるなど、コンビ内外で幅広く活動している。趣味は読書とサウナ。なお、祖父は神奈川県を中心に展開する書店チェーン店「有隣堂」の副社長を勤めたこともある。

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